ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

自己組織性イオン液体の設計に基づくジャイロイド構造の構築とその解析および応用室温を含む広い温度範囲で双連続キュービック相を発現する分子を作製することに成功してきた.例えば,図7に示したような扇型アンモニウム塩Am-n(nは長鎖アルキル基の炭素数)は双連続キュービック相を発現することを発見した.16)具体的には,化合物Am-10は42℃から82℃で双連続キュービック相を発現する.一方,化合物Am-12は32℃から49℃で双連続キュービック相を示し,その高温領域においてヘキサゴナルカラムナー相を発現する.Am-12の集合構造の温度依存性は非イオン性のアルキル鎖が占有する実効体積の温度変化によって説明できる.類似の扇型イミダゾリウム塩では双連続キュービック相の発現が観察できなかったことを考慮すると,扇型頭部のトリエチルアンモニウム塩構造が双連続キュービック相の発現に強く関与していると考えられた.この予測を裏付ける結果として,ほぼ類似の構造を有する扇型ホスホニウム塩Ph-nにおいても双連続キュービック相の発現を観察することができた.21)双連続キュービック相の発現を見出すに至った重要な実験として偏光顕微鏡観察が挙げられる.化合物Am-12について,高温の等方相状態から降温しつつ観察すると,液晶相への転移とともにヘキサゴナルカラムナー相に特有のファンテクスチャが現れる(図8左上).さらに,この状態を冷却していくと,複屈折のない暗視図7扇型アンモニウム塩Am-nと扇型ホスホニウム塩Ph-n.(Wedge-shaped ammonium salts and wedgeshapedphosphonium salts.)野なドメインが出現し,成長し(図8右上,左下),最終的には完全に暗視野な状態へと転移する様子がうかがえる(図8右下).これは,二次元的な秩序構造をもったカラムナー構造から三次元的な周期秩序構造をもつ等方的なキュービック構造への転移を強く示唆している.2.3シンクロトロンX線を用いた構造解析イギリスのシェフィールド大学のUngar教授のグループとの共同研究の下,扇型アンモニウム塩Am-10についてシンクロトロンX線散乱測定を行った.得られた散乱ピークの強度を測定し,フーリエ変換することで,双連続キュービック液晶状態における電子密度分布を調べた.得られた結果を図9aに示す.電子密度の高い領域を赤色で,低い領域を青色で示してある.三次元的に分岐・連結したチャンネルドメイン状に電子密度の高い領域とそれを取り囲む電子密度の低い領域からなる立方格子状の構造を形成している様子がうかがえる.21)長鎖アルキル基のようなアルカン類は体積密度が低く(例えばドデカンの比重は0.75),アンモニウム塩などの有機塩は体積密度が高い(一般に多くのイオン液体の比重は1.1~1.5)ことを考慮すると,扇型アンモニウム塩分子のイオン性骨格が電子密度の高い領域に組織化していることが予想される.高輝度放射光を用いたとしても,液晶状態における分子のパッキングに関する情報をすべて得られるわけではない.これは,液晶が「ゆらぎのある材料」であるためであり,この点が結晶材料との大きな違いである.そのため,液晶状態における分子組織化構造に関するさらなる知見を集めるためには多角的な解析が重要となる.近年,開発された方法論として,類似液晶化合物について得られる電子密度分布を比較するというものがある.22)今回紹介してきたアンモニウム塩Am-10のアニオンをBF 4からPF 6に変えた化合物も同様に双連続キュービック相を発現する.これら2つの化合物はアニオンのみが異なることから,それぞれの化合物について得られる電子密度マップを差し引きすることで現れる高電子密度領図8カラムナー相から双連続キュービック相への転移における偏光顕微鏡観察像の変化.(Polarizingoptical microscopic observation for Am-12 duringthe phase transition from hexagonal columnar tobicontinuous cubic phases.)図9双連続キュービック液晶Am-10について得られた(a)電子密度マップと(b)差電子密度マップ.(Electrondensity map obtained for Am-10 in the bicontinuouscubic liquid-crystalline phase and differential electrondensity map.)Reprinted with permission from J.Am. Chem. Soc. 134, 2634(2012). Copyright 2012American Chemical Society.日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)187