ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

一川尚広,大野弘幸,吉尾正史,加藤隆史を冷却して得られる液晶相を観察すると,特有の光学組織を見ることができる.液晶相の違いによっても観察される光学組織はまったく異なる.それぞれの液晶相に特有のテクスチャが明らかとされており,分子集合構造とそのテクスチャパターンの関係なども調べられている.そのため,光学組織を観察するだけで,おおよその分子集合構造を予測できる場合も多い.液晶状態において観察されるテクスチャの例を図4に示す.同じスメクチック相やカラムナー相に分類される化合物でも,周期構造の対称性や分子特有の物理化学的性質によって観察される光学組織パターンは多彩に変化する.詳しくは専門書を参考されたい.19)液晶のような分子運動性が比較的高い材料についても,X線回折測定によりその分子集合構造に関する有用な情報を得ることができる.液晶サンプルについてX線回折測定を行うと,系中における周期構造に由来する回折ピークが認められる.基板修飾や外部刺激の印加によってモノドメインの液晶サンプルを調製することも可能な場合は多いが,そのような特殊な条件下でない場合,液晶はマイクロサイズのポリドメイン構造を形成する.よって液晶サンプルについてX線回折測定を行うとX線回折のデバイリングが観測される.液晶サンプルについて得られた二次元X線回折パターンの例を図5に示す.このようなデバイリングからはそれぞれの回折ピークの指数付けを完全に確定することはできない.偏光顕微鏡観察結果や類似化合物の集合構造などの情報により,集合構造に関する情報を補完し,構造を類推していくこ図4偏光顕微鏡観察下において液晶サンプルが示す特有の光学組織.(Typical textures observed forliquid-crystalline samples under polarizing opticalmicroscope.)a:スメクチック相,b:カラムナー相.とが重要である.高輝度X線を用い,ブラッグ斑点を得ることができれば,恣意的な要素をなるべく排除して指数付けすることが可能である.2.ジャイロイド構造の設計と機能化2.1ジャイロイド構造種々の相分離構造の中でも,ジャイロイド構造は周期構造の三次元的な連続性をもっているため,特異な機能の発現が期待される.自然界を含む多様な場面においてもこの構造を垣間見ることができる.例えば,チョウの翅を高倍率で観察するとキチン質で形成されたジャイロイド構造を見ることができる.このようなジャイロイド構造を液晶の自己組織化によって作ることができる.相分離型の液晶の中でも,双連続キュービック相(Bicontinuous Cubic Phase)として分類される液晶相は,2つのチャンネルネットワーク構造が入り組んだダブルジャイロイド構造を形成する(図6).この図の中で,液晶分子骨格の一方の末端が三次元チャンネルドメイン状に組織化し(図6赤),もう一方の末端が三次元的な極小界面上(図6青)に組織化することでこの特異的な相が形成されている.分子構造にもよるが,一格子長は約7~10 nmの精緻な立方構造である.2.2イオン性双連続キュービック液晶これまで多種多様な液晶分子が開発されてきたが,温度を変えることにより液晶相を示す分子(サーモトロピック液晶)の中で,双連続キュービック相を発現するものは非常に限られている.20)そのため,分子構造設計指針を提案することは容易ではなく,いまだデザインの難しい液晶相と考えられている.これまで,われわれはこのような双連続キュービック液晶の開発を目指し,さまざまなイオン性液晶を設計・合成してきた.イオン液体の無限とも言える多様性を液晶分子設計に組み込むことで,この設計の難しい双連続キュービック液晶をデザインできるのではないかとわれわれは考えた.事実,扇型イオン性液晶分子のイオン構造を振り分ける中で,図5液晶サンプルについて得られるX線回折パターンの例.(A typical X-ray diffraction pattern obtained fora liquid-crystalline material.)図6双連続キュービック液晶が形成するダブルジャイロイド構造と系中における分子の配置.(Doublegyroidstructureformedbybicontinuouscubicliquidcrystals.)(編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.)186日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)