ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

粉末未知結晶構造解析法により展開する物質科学図8空間群(a)P2 1/cと(b)C2/mによるZn-Mの粉末X線回折データに対するLe Bail解析の結果.(c)メカノケミカル反応で合成した試料(Zn-M,i,ii)と溶液で合成した試料(Zn-S,iii,iv)の溶媒和物(i,iii)と脱溶媒後(ii,iv)の粉末X線回折パターン.(Results of Le Bail analyses of Zn-M in spacegroup(a)P2 1/c and(b)C2/m.(c)Powder X-ray diffractionpatterns of Zn-M(prepared by mechanochemicalreaction)(i)solvate and(ii)desolvated phases, andZn-S(prepared in solution)(iii)solvate and(iv)desolvated phases.)を示す構造型として,蛍石型構造やペロブスカイト型構造などが知られており,元素置換等の工夫により高い伝導度を示す材料の開発が進められてきた.しかし,さらなる革新的な酸化物イオン伝導体の開発には,既存の構造ファミリーではなく,まったく新しい構造ファミリーに属する酸化物イオン伝導体の開発が求められる.このような背景の中,筆者らはイオンサイズに基づく構造設計により新しい構造ファミリーに属する酸化物イオン伝導体BaNdInO 4の開発に成功したので,本稿で紹介する.新構造ファミリーの構造設計として,まず,近年酸化物イオン伝導体として注目を集めているK 2NiF 4型酸化物をもつAA′BO 4の組成に注目し,結晶構造データベースの調査を行った.ここでAおよびA′は比較的大きい陽イオン,Bは小さい陽イオンである.K 2NiF 4型酸化物は,ペロブスカイト(A,A′)BO 3ユニットと岩塩(A,A′)Oユニットが交互に積層した構造をもっている.K 2NiF 4型構造において,AとA′の陽イオンは,同程度の大きさをもっており,平均構造では同じ位置(席)を占有している.そこで筆者らは,AとA′の陽イオンの大きさに差をつけることでAとA′が占有状態の規則化を起こし,新しい構造を発見できると考えた.これまでに報告されているK 2NiF 4型構造は,AとA′のイオンサイズの比が1.2以下であることがほとんどであったため,それより比の大きい組み合わせを狙った.また,K 2NiF 4型構造において,酸化物イオンは,ペロブスカイトユニット内や,岩塩ユニットと日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)の境界を流れやすいことが知られている.そこで,ペロブスカイトユニットの形成が期待できるようなイオンのサイズという条件も構造設計に組み込むことで,酸化物イオン伝導性の発現を狙った.最終的に,AにBa,A′にNd,BにInを組み合わせたAA′BO 4組成BaNdInO 4にたどり着いた.Ba 2+とNd 3+のイオン半径比は9配位のイオン半径で1.26であり,これまで詳細が調べられていなかった組み合わせとなっている.BaNdInO 4の合成は,固相反応法と呼ばれる混合した粉末原料(高純度のBaCO 3,Nd 2O 3,In 2O 3)を高温(1400℃)で焼成する方法により合成した.粉末X線回折データより,反応生成物がこれまでに報告のない構造であることがわかったため,その構造を放射光X線回折データおよび中性子回折データに基づく粉末未知結晶構造解析より解明した.放射光回折測定は,SPring-8 BL19B2にて行い,中性子回折測定は,J-PARCiMATERIAにて実施した.構造解析は,まず,放射光X線回折データに基づき進めた.チャージフリッピング法(プログラムSuperFlip 26))による構造決定で,陽イオンの配置を決めることができ,酸素の配置は陽イオンからの距離などから考え配置した.この構造モデルに基づき,プログラムRIETAN-FP 27)を使いリートベルト法により構造の精密化を行った.放射光回折データから導いた構造は空間群P2 1/mで実測のデータをよく説明する結果(図9a;R wp=0.0169,RB=0.0155)となっていたが,その構造を用いてTOF中性子回折データのリートベルト解析(プログラムZ-Code 28))を進めたところ,説明できない反射がいくつかあり,信頼度因子もR wp=0.1350,RB=0.1767と十分に下がらなかった(図9b).試行錯誤の結果,放射光回折データから導かれた構造の倍格子で,空間群P2 1/cという構造が放射光および中性子回折共によく説明する構造であることがわかった(図9c,d;放射光データ:R wp=0.0180,RB=0.0131;中性子データ:R wp=0.0417,RB=0.0441).P2 1/mの結晶構造では,酸素が鏡面上に存在していたのに対し,P2 1/cの結晶構造は,酸素がその鏡面上から変位した配置となっていた.X線回折では電子数の少ない酸素の情報が決めづらく,わずかな変位を見抜くことができなかった.一方,酸素の散乱能も比較的大きい中性子回折からは,そのわずかな変位を見抜くことができた.この結果は,X線と中性子の相補的な利用が,未知の構造解析や,詳細な結晶構造の解明には必要であることを示している.解明されたBaNdInO 4の結晶構造は,Ndと酸素が並ぶA希土構造A 2O 3ユニット(A=Nd)と,(Ba,Nd)とInO 6八面体からなるペロブスカイト(A,A′)BO 3ユニット((Ba,Nd)InO 3ユニット)が交互に積層した構造となっていた(図10a).占有率の精密化などから,A=BaとA′=Ndは規則的に並んでおり,不規則化は起きていないこ175