ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

藤井孝太郎図7 Zn-Mの結晶構造.(Crystal structure of Zn-M.)a軸投影図(左)とb軸投影図(右).図6亜鉛,4,4’-ビピリジン,フマル酸からなる三次元有機金属フレームワーク物質Zn-Mの合成プロセス(上段)と各出発物質および反応生成物の粉末X線回折パターン(下段).(Reaction scheme of threedimensional metal-organic framework Zn-M(upper)and powder X-ray diffraction patterns of the startingmaterials and reaction products(lower).)られる(図6).回折測定は,実験室系装置を用いてCu Kα1に単色化した集光ビームを用いて行った.Zn-Mの構造解析では,構造決定法にプログラムEAGER 24)を使用した.このプログラムは,遺伝的アルゴリズムによる実空間法の構造決定ができる.指数付けで得られた格子体積より,非対称単位に亜鉛が2つ,4,4’-ビピリジンが1分子,フマル酸が2分子存在していることがわかった.最初の構造決定では,この五つのフラグメントを使用し構造決定を行った.おおまかな分子の配置や配位環境は明らかにできたものの,分子間の距離が近いなど妥当な構造とは言えない結果となった.そこで,得られたおおまかな構造から,配位環境に制限をつけて再度構造決定の計算を行ったところ,化学的に妥当な構造を導くことができた.最終的にリートベルト法による構造精密化を経て得られた結晶構造を図7に示す.Zn-Mは空間群P2 1/cで亜鉛,4,4’-ビピリジン,フマル酸からなる三次元のフレームワーク構造であることが明らかとなった.この構造は,2つのフレームワークが相互貫通した構造になっている.亜鉛と4,4’-ビピリジン配位子がc軸に沿って配位一次元鎖を形成し,それとほぼ垂直方向にフマル酸が配位することで,亜鉛-4,4’-ビピリジンの一次元鎖同士を架橋して,三次元のフレームワークを形成していた.この反応生成物は,DMF溶液中でも同様の構造を得ることができる.25)その例では,単結晶構造解析により,DMFを包接した空間群C2/mの構造であることを報告している.この空間群は,Zn-MのP2 1/cとは異なる.今回,メカノケミカル反応によって得られたZn-Mについても空間群C2/mである可能性を考え解析を試みたが,良好な結果は得られなかった.Le Bail解析の結果を図8a,bに示す.空間群P2 1/cではすべての反射を説明できるものの,C2/mでは説明できない反射があった.そこでDMF溶液中での合成によって得られた物質(Zn-S DMF和物)の粉末X線回折測定を行ったところ,Zn-M酢酸-水和物やZn-Mでは観測されていた反射が観測されなかった(図8c,黒三角の反射).一方,Zn-S DMF和物を脱溶媒させた相は,該当部分に反射が確認された(図8c,Zn-S脱溶媒後).以上のことより,DMF溶液で合成した場合には,空間群C2/mとして結晶化し,メカノケミカル反応や脱溶媒によって得られる結晶相は空間群P2 1/cになることが明らかとなった.空間群C2/mでは,4,4’-ビピリジンが鏡面上に存在し,ピリジン環同士のねじれが許されない.一方,P2 1/cでは鏡面対称の制約がなく,ピリジン環のねじれが起きていた.ここで示した例は,混合・粉砕といった簡便な方法かつ20分という短い時間で,高い反応率を達成できており,メカノケミカル反応の有用性を強く示す結果となっている.しかし,その反応を理解するためには,反応生成物の構造を明らかにしなくてはならない.特にここで示した例のように三次元の有機金属フレームワークが形成される場合,結晶構造を明らかにせねば,反応を理解したとは言えない.メカノケミストリー,そして有機金属フレームワークという最先端の化学において,粉末未知結晶構造解析法が今後も中心的な役割を担うと期待される.5.新しい構造ファミリーに属する酸化物イオン伝導体BaNdInO 4の発見14)酸化物イオン伝導体は酸素分離膜や固体酸化物イオン伝導体などへの応用が可能であるため,広く注目を集めている.より高い酸化物イオン伝導度を示す物質の開発は,例えば固体酸化物形燃料電池の発電効率を上げるために欠かすことができない.酸化物イオンの伝導度は,その材料を構成する結晶構造と密接な関係があり,原子(イオン)が規則的に並んだ結晶構造の中で移動しやすい経路を酸化物イオンは拡散する.これまで高いイオン伝導度174日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)