ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

千田俊哉図8転写開始のhi-MOSTモデル.(The colocalization and histone eviction model of CIA/ASF1 and DBrD(CCG1)(hi-MOST model.))CIAがDBrDによりヒストンのアセチル化サイトにリクルートされ,ヌクレオソーム構造を破壊することで転写開始を促進するというモデルを提唱した.図9 CIA-H3-H4複合体とCIA-DBrD複合体の結晶構造.(Crystal structures of the CIA-H3-H4 and CIA-DBrDcomplexes.)存的にCIAがTFIIDのブロモドメインを介してプロモータ領域にリクルートされ,その周辺のヌクレオソームの破壊を促進することで,RNAポリメラーゼⅡ(PolⅡ)のエントリーを促進し,転写の活性化につながるというモデルである.われわれは,結晶構造に基づいた生化学と酵母を使った遺伝学的解析を行うことで,このモデルが確からしいことを以下のように示してきた.われわれが構造決定した複合体はCIA-H3-H4複合15体)とCIA-DBrD複合体16)である(図9).結晶構造解析の結果,それぞれの構造に特徴的な点が見つかった.第1は,CIAが結合するのは(H3-H4)2という四量体ではなく,H3-H4二量体であるという点である.15)結晶化の際には(H3-H4)2を用いたので,CIAが四量体を分割して二量体にしたと考えられた.われわれは,生化学的な解析でCIAは確かに(H3-H4)2四量体を分割することができることを確認した.15)永らく(H3-H4)2は安定なものと考えられていたので,このCIAの活性は驚きをもって迎えられた.第2は,CIAが2つのDBrDと結合することである.16)生化学解析からCIAは溶液中においても2つの異なるDBrD結合サイトをもつことが示唆された.結晶構造に基づいた生化学により,結晶構造と溶液構造との関係がついたところで,酵母を用いた遺伝学的解析を行った.遺伝学的解析は,Spt表現型という転写開始に関連するタンパク質を多数見出した表現型を用いて行った.15)CIA-H3-H4の関係に関しては,CIAの分子表面をほぼ網羅するようにアミノ酸残基を選び出し,おのおのをアラニンに変換した変異体を90種類作製して,どの部位が転写開始と関係があるのかを解析した.すると,CIAの分子表面のうち,H3との相互作用にかかわるアミノ酸の変異によりSpt表現型が観察されることがわかり,CIAとH3との相互作用が転写開始に関係することが示唆された.15)次に,CIAとDBrDの関係であるが,結晶構造を参照して両者の相互作用面に変異を入れてSpt表現型を解析したところ,やはり両者の相互作用が転写反応の開始に関与していることが示唆された.16)このような遺伝学的解析と並んで,CIAやDBrDの局在もクロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いて検討した.その結果,この2つのタンパク質は転写が活性化されているプロモータ領域に集まっていることが示された.これらの結果から,結晶構造中で観察された相互作用が転写開始に関与していることが示唆されたが,われわれはさらにCIAとDBrDの相互作用を弱くした場合に何が起こるかに関してもChIP法を用いて解析した.結果はそれほどクリアではなかったものの,変異体においては転写を抑える方向への変化が観察された.これらの実験事実に基づき,われわれは図8に示すモデルを提唱している.この解析においては,転写開始とアセチル化の関係に関して詳細でクリアな分子機構を示したということではないが,転写開始に関係する多数の因子がプロモータ部位に存在するという悪条件(?)のもと,特定の相互作用に着目してモデルの検証を行った点が重要だと考えている.特に,CIAは生存に必須のタンパク質であり,遺伝子欠損実験ではその機能を詳しく解析することは不可能である.そのような致死的遺伝子でなくても,遺伝子を欠失させた場合の影響は広範囲に及ぶので,正確な解168日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)