ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

エピジェネティックおよび疾病関連タンパク質の構造生物学研究はNBSとCBSのヘリックスが4-α-ヘリックスバンドルを形成して相互作用する可能性が高いことがわかってきた.5)そこで,ヘリックスバンドルの界面であると考えられる部分のLeuをArgに置換した変異体を作って円偏光二色性スペクトルやゲルろ過で分析したところ,NBSとCBSが4-αヘリックスバンドルを形成していることをサポートする結果が得られたのである.プルダウン実験でシグナルが出なかったのは,全長のCagAを使っていたために,NBSがCBSとの分子内相互作用でマスクされ,分子間のNBS-NBS相互作用ができなかったことが原因であると考えられた.6.投げ縄様構造と機能との関係NBSとCBSの相互作用があること,CagA-Cは単独では天然変性領域であることから,CagAのC末領域は投げ縄様の構造をもつことがわかってきた(図7).では,この構造はCagAの機能に関係があるのであろうか?このことを調べるために,上で述べた投げ縄様構造を破壊する変異体を使っていくつかの解析を行った.5)まず,免疫沈降実験により,細胞内からCagA-Par1b-SHP2複合体を抽出し,その構成要素の比較を行った.その結果,Par1bの結合量に大きな差は見られなかったものの,SHP2の結合量には有意な差が見られた.このことは,投げ縄様構造はCagA-Par1b-SHP2複合体の形成に影響を及ぼすことを示している.次に,培養細胞を用いて細胞の形状が細長く変化するハミングバード表現型を指標にCagAの活性を測定したところ,免疫沈降実験の結果と対応するように,変異体ではハミングバード表現系を示す細胞の数が有意に減っていた(SHP2の活性の亢進は,ハミングバード表現型と関係することが知られている).また,Par1bとの結合に関しても,見かけのK d値は図7 CagAの投げ縄様構造.(The lariat-loop like structureof CagA.)NBSとCBSが相互作用することで,投げ縄様の構造をとる.日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)野生型と変異体で変わらないものの,k on,k offの値は大きく異なっており,動的な性質に違いがあることが示唆された.以上のことから,投げ縄様構造は機能的にも影響があることがわかってきた.7.逐次的な複合体形成の仮説これらの結果は,CagA-C領域が単純な天然変性領域であるというイメージに変更を迫ることになった.つまり,単なる天然変性状態と考えられていたCagA-C領域は,CBS部分にヘリックス構造が誘起されることで構造領域内のNBSと相互作用して投げ縄様の構造をとるようになる.その結果,動的性質やシグナル分子との相互作用に変化が生じ,物理化学的性質だけでなくCagAの生物活性にも影響する.天然変性領域的な性質をもつCagA-Cと構造領域との相互作用は,ある種の機能的なスイッチとしても機能しうるということかもしれない.今後は,天然変性領域と構造領域のかかわりによって,機能的な多様性を生み出せるというアイデアの検証を続けていきたいと考えている.8.ヒストンシャペロンCIAと転写開始本稿の後半では,ヒストンシャペロンCIA/ASF1(以下,CIAと呼ぶ)と転写との関係に関する話題を簡単に取り上げたい.15),16)ヒストンシャペロンとは,ヒストンと相互作用して,ヌクレオソームの形成や破壊を促進する因子のことである.17)ヒストンとDNAとを適切な条件で混ぜるとヌクレオソーム構造を作らせることができるが,ヒストンシャペロンはこの変化を促進する.ヌクレオソーム構造がDNAと酵素の反応(転写,DNA複製,DNA修復など)を阻害することを考えると,ヒストンシャペロンは核内においてこれらの反応の制御にかかわっているとも言える.われわれは,ヒストンシャペロンCIAの機能に迫るために,CIAとその相互作用タンパク質複合体の結晶構造からのアプローチを行った.構造解析を行う時点で,(1)CIAが転写反応にかかわっているらしいこと,18)-20)(2)CIAはヒストンH3-H4複合体と結合すること,21)(3)CIAはヒストンのアセチル化を認識するブロモドメイン(具体的には基本転写因子であるTFIID複合体中のTAF1(CCG1)サブユニット中の,タンデムブロモドメイン(以下DBrDと記す))と相互作用すること,18),21),22)などがわかっていた.また,エピジェネティック情報の1つであるヒストンのアセチル化は転写の活性化と関係があることは古くから指摘されていた.23)エピジェネティック情報というのは遺伝情報以外で,遺伝子発現などに影響を与える情報のことで,ヒストンの翻訳後修飾やDNAのメチル化などがよく知られた例である.これらの関係から,われわれは図8に示すような仮説を考えた.つまり,ヒストンのアセチル化依167