ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

千田俊哉おり,ドメインⅡにあるβシートを除けばすべてがαヘリックスである(α1からα23まで).α19は,ドメインⅡとドメインⅢとをつなぐ60アミノ酸残基からなる長い折れ曲がったヘリックスで,結晶が異なればその曲がりの角度も微妙に異なっていた.また,分子中には,電子密度の観察されない運動性の高いと考えられる部分が何カ所か見られた.5)最も長い部分は,ドメインⅠとドメインⅡをつなぐ81アミノ酸残基にわたる領域で,ドメインⅠとⅡをつなぐリンカー領域であると考えられた.ドメインⅠとドメインⅡ,Ⅲとの間には密接な相互作用が見られないことから,ドメインⅠは溶液中では運動性の高いリンカー領域を介して比較的自由に動き回っていると示唆された.C末側に関しては,結晶により多少の違いはあるものの,C末部分の約50アミノ酸の電子密度は観察されず,残基番号825番より後は大きく揺らいでいると考えられた.これ以外にも残基番号510から536までの領域も運動性が高い部分である.以上から,CagA-Nは動きやすいα-ヘリックスと数カ所の短い天然変性領域が組み合わさった構造をしていると考えられた.CagA-Nの構造を決定することができたので,これまでに未解決であった問題を解決して行った.最初に取り組んだのが,細胞の内膜への結合様式の解明である.CagAは細胞内膜にある負電荷をもつフォスファチジルセリン(PS)に結合するということが知られていたため,13)CagAの構造中で正電荷をもつ部分を探した.その結果,ドメインⅡのヘリックスα18と,その周辺にはアルギニンやリジンが大量に集合していることが明らかになった(図4).結晶構造に基づいた生化学的解析と生物学的解析を組み合わせ,この塩基性領域と名付けた部分が膜結合に関与しているということを示した.5)5.結晶中で観察されたCa g Aの2量体とC末の構造免疫沈降などの実験から,CagAは膜上で2量体(もしくは多量体)を形成すると考えられていた.14)結晶中では,CagA-Nはα22とα23の2つのαヘリックスを用いて,分子間で4-αヘリックスバンドルを形成して,2量体化していたため(図5),この相互作用こそがCagAが細胞内膜上で二量体を形成する際に重要な相互作用に違いないと考え,相互作用実験を開始した.しかし,いくらやっても二量体化を示す結果は得られなかった.これは結晶中に特有の相互作用なのかと諦めかけたころ,まったく別の答えが得られ,すべてに対し説明をつけることができた.まずわかったことは,別々に発現させたCagA-NとCagA-Cは,相互作用するということである.この相互作用サイトを探していくうちに,結晶中で見られるCagA-Nの2量体の相互作用面になっている領域(以後NBS:N-terminal binding sequenceと呼ぶ)とよく似たアミノ酸配列をもつ領域がCagA-C内にあることがわかった(以後,この領域をCBS:C-terminal binding sequenceと呼ぶ).図6に示すように,NBSとCBSのアミノ酸配列を比較すると約70%もの相同性を示すことから,CBSはNBSと同様にα-ヘリックス構造をとること,さらに図5結晶内で観察されたCagA-Nの二量体.(The CagA-Ndimer observed in the CagA crystal.)結晶内でCagA-Nは,NBSを介して二量体を形成している.図4CagA-N(1-876)の結晶構造.(The crystal structureof CagA-N(1-876).)濃く示した部分は,PSに結合する塩基性領域.図6NBSとCBSのアミノ酸配列の比較.(Amino acidsequence comparison between NBS and CBS.)両者のアミノ酸配列は類似しており,相同性は約70%におよび,54%のアミノ酸が同一であった.166日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)