ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

田中勲ステムに組み込まれるまでには至っていない.その主な理由は,析出形態が多様なタンパク質結晶を1個だけ選び出して拾い取ることの難しさにあると思う.1つのタンパク質結晶で成功したとしても,ほかの結晶に適用できるという保証がないということである.われわれは,S-SAD法のために開発したマウント装置を使えば,新しい自動マウント法が可能になるのではないかと考えて,現在そのための開発を進めている.計画では,「1個の結晶をピックアップしてマウントする」というこれまでのやり方ではなく,はじめにディッシュの中の結晶をすべてキャピラリーに吸い取り,次に,顕微鏡で観察しながら,結晶を溶液ごとループ上に吐き出す.この際,余分な溶液は下から吸い取ってしまう.この手法は,1個の結晶をピックアップする方法と比べて,圧倒的に取扱いが簡単であり,また結晶形態の違いに左右されることもない.想定している自動構造解析(リガンド探索)の流れは次のようになる.結晶化ディッシュの結晶を1つあるいは数個ずつマウントループに移し,次にそれをゲルで固定して,そのままリガンドスクリーニング溶液に浸けて,必要ならさらにクライオ溶液に浸け,それを凍結して,ユニパック容器に保存する.こうして準備したサンプルは,次に,放射光施設のロボットに受け渡して自動データ収集ならびに解析を行う.4.おわりに筆者が初めてタンパク質の構造解析を行ったのは,1984年,西ドイツ(当時)においてである.西ドイツに行って,世界のタンパク質結晶学がいかに進んでいるかを痛感し,日本に帰ってからしばらくは,欧米の環境をいかに整えるかに腐心した.欧米ではタンパク質の構造解析はワークステーションで行う時代になっていたが,日本ではまだ大型計算機センターの時代が続いていた.また,三次元グラフィクスシステムは,すでに必須のアイテムとなっていたが,日本では贅沢品とみなされ,普通の研究室では手が出せなかった.そこでパソコンを使って,代替プログラムを作った.これはリチャードボックス21)のコンピュータ版という程度の代物だったが,実際に,それを使っていくつかのタンパク質の構造解析を行った.それから30年,今日,設備においても,また成果においても,日本は欧米に追いついたように見える.しかし,同じような研究をしていても,欧米で開発された手法を一方的に拝借しているのでは,両者には大きな差があると言わざるを得ない.次の世代の日本の研究者が,方法論の開発も含めて世界をリードすることを願って止まない.謝辞研究を行うにあたって,姚閔さん,中川敦史さん,渡邉信久さん,工藤淑永さん,田中良和さんをはじめとする歴代の職員の方,博士研究員としてタンパク3000プロジェクトで活躍していただいた,伊藤啓さん,坂井直樹さんには大変お世話になりました.改めてお礼を申し上げます.紹介した研究は,研究室に所属した多くの学生諸君によるものです.またリボソームタンパク質の研究は,九州大学の木村誠先生,新潟大学の内海利男先生の研究室との共同研究で行われました.文献1)M. Suzuki, H. Sugimoto, A. Nakagawa, I. Tanaka, J. Nishihira andM. Sakai: Nature Struct. Biol. 3, 259(1996).2)H. Kondo, A. Nakagawa, J. Nishihira, Y. Nishimura, T. Mizuno andI. Tanaka: Nature Struct. Biol. 4, 28(1997).3)H. Hosaka, A. Nakagawa, I. Tanaka, N. Harada, K. Sano, M.Kimura, M. Yao and S. Wakatsuki: Structure 5, 1199(1997).4)A. Nakagawa, T. Nakashima, M. Taniguchi, H. Hosaka, M. Kimuraand I. Tanaka: EMBO J. 18, 1459(1999).5)T. Nakashima, M. Yao, S. Kawamura, K. Iwasaki, M. Kimura and I.Tanaka: RNA 7, 692(2001).6)N. Sakai, M. Yao, H. Itou, N. Watanabe, F. Yumoto, M. Tanokuraand I. Tanaka: Structure 9, 817(2001).7)V. Ramakrishnan and S. W. White: TIBS 23, 208(1998).8)M. Selmer, C. M. Dunham, F. V. Murphy IV, A. Weixlbaumer, S.Petry, A. C. Kelley, J. R. Weir and V. Ramakrishnan: Science 313,1935(2006).9)C. Zheng, M. Yao and I. Tanaka: J. Appl. Cryst. 28, 225(1995).10)I. Tanaka, A. Nakagawa, H. Hosaka, S. Wakatsuki, F. Mueller and R.Brimacombe: RNA 4, 542(1998).11)T. Naganuma, N. Nomura, M. Yao, M. Mochizuki, T. Uchiumi andI. Tanaka: J. Biol. Chem. 285, 4747(2010).12)J. M. Kavran and T. A. Steitz: J. Mol. Biol. 371, 1047(2007).13)Y. Kitago, N. Watanabe and I. Tanaka: Acta Cryst. D61, 1013(2005).14)渡邉信久:結晶学会誌, 48, 271(2006).15)M. Kitamura, M. Okuyama, F. Tanzawa, H. Mori, Y. Kitago, N.Watanabe, A. Kimura, I. Tanaka and M. Yao: J. Biol. Chem. 283,36328(2008).16)M. Yao, Y. Zhou and I. Tanaka: Acta Cryst. D62, 189(2006).17)Y. Zhou, M. Yao and I. Tanaka: J. Appl. Cryst. 39, 57(2006).18)H. Tanaka, K. Kato, E.Yamashita, T. Sumizawa, Y. Zhou, M. Yao, K.Iwasaki, M. Yoshimura and T. Tsukihara: Science 323, 384(2009).19)A. Shinoda, Y. Tanaka, M. Yao and I. Tanaka: Acta Cryst. D70, 2794(2014).20)M. C. Dellera and B. Rupp: Acta Cryst. F70, 133(2014).21)F. M. Richards: J. Mol. Biol. 37, 225(1968).プロフィール田中勲Isao TANAKA北海道大学先端生命科学研究院Faculty of Advanced Life Science, HokkaidoUniversity〒060-0810北海道札幌市北区北10条西8丁目Kita-10, Nishi-8, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060-0810, Japane-mail: tanaka@castor.sci.hokudai.ac.jp専門分野:構造生物学,X線結晶学現在の研究テーマ:X線による薬剤探索の自動化162日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)