ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

タンパク質結晶学方法論の開発と網羅的解析市販の針を利用ループHAMPTONのベースを利用ブリッジループ(ポリイミドフィルム製)3.3自動構造解析市販の針中空パイプ最後に自動構造解析,とりわけリガンドスクリーニングの自動化について,現在までの取り組みを記す.人が介在することのない全自動構造解析は,タンパク質結晶構造解析の究極の形であるが,さまざまなイノベーションのおかげで,今やそれは,かなり現実味を帯びてきている.回折データをとり,それを処理して,電子密度を得て,モデルを組み立て,そして精密化するという流れのそれぞれのステップについては,今では自動プログラムが作製され,熟練した人ならば,短時間で処理ができるようになっている.われわれは,構造ゲノム科学プロジェクトで多数の構造を解析する必要性から,時間の最もかかる構造構築と精密化過程を自動的に行うプログラムLafireを作製した.16),17)Lafireは,タンパク3000プロジェクトの期間を通して,たくさんの構造解析を少ない人数で行うのに非常に役立ったが,それだけではなく,巨大な超分子複合体の構造解析でも威力を発揮した.蛋白研で行われた分子量1000万のVaultの解析では,従来の方法なら非常に時間がかかる精密化がLafireで短期間に行われた.18)3.3.1 X線による薬剤探索の自動化タンパク質の立体構造情報をもとにその働きを制御する薬剤を開発する手法は,Structure Based Drug Discovery(SBDD)法と呼ばれている.SBDD法は,構造を見ながらの合理的な薬剤設計が可能になることから,新規薬剤の迅速な開発につながることが期待されているが,しかし,結晶にリガンド候補化合物を浸透させる実験,通称ソーキング実験は,現時点では,1つ1つの結晶をループで拾って,リガンドを含む溶液に落とし,それを再度拾い取ってX線をあてるという流れで,手作業で行われている.このためX線によるスクリーニングは,ハイスループット性において決して満足できるものではない.私たちはハイスループットなリガンドスクリーニング日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)吸引機付きゴニオHAMPTONベース図11溶液フリー結晶マウント法のための装置Schematic.(illustration of the devise for the solution-free crystalmounting method.)(上)全体の写真(中)概略図.溶液の流れを矢印で示している.(下)分解図.図12左:ゲルによる結晶の固定(模式図).(Left: Crystalanchoring by gel(schematic illustration).)左はインクジェットノズルから2種類のTetra-PEG溶液を吐出・混合してゲル化させ,結晶をループに固定する.右:Tetra-PEGゲル.(Right: Tetra-PEG gel.)右は4分岐したポリエチレンオキシドの鎖の先端(X)に官能基をつけた2種類の試薬を,クリック反応で共有結合させてゲル化する.を実現するために,まず手始めとして,ループにすくい取った結晶を離すことなく,そのままリガンドソーキング実験に使うことができるように,タンパク質結晶を結晶マウント装置に固定する技術の開発に取り組んだ.結晶をループに固定してもリガンドが浸透できるように,固定には親水性のゲルを使うことを計画した.しかし,タンパク質結晶は外的環境の変化で簡単に壊れてしまう.したがって,ゲル化は瞬時に完結しなければならない.多くの試行錯誤の結果,最終的には2液混合することでゲル化が起こるTetra-PEG溶液をインクジェットで結晶表面に打ち出して,そこで瞬時にゲル化させる技術を確立した.19)Tetra-PEGゲルは,4分岐したポリエチレンオキシドの鎖の先端に官能基のついた2種類の試薬が,クリック反応で共有結合してゲル化するものである.私たちは,一方にマレイミド,他方にチオールが結合し,鎖の繰り返し長n=100のTetra-PEGを利用して,さらに塩基触媒を使い,インクジェットで混合させると,瞬時に(結晶がダメージを受ける前に)ゲル化することを見出した.このようにして作ったゲルは,十分な強度をもっており,実際にリガンド溶液の中で結晶を保持でき,また既知の阻害剤を結合させることにも成功した.19)このシステムの作製には,結晶を瞬時に認識して,必要な量の溶液をインクジェットで最適の場所に吹き付ける技術が必要であった(本誌,198-202ページ参照)(図12).3.3.2自動化の今後自動化にとって最後の難関は,結晶化ディッシュ上の結晶をループにマウントする工程である.この工程が自動化できれば,結晶から構造までを全自動で行うことも視野に入ってくる.結晶マウントの自動化については,これまでにもいろいろな方法が報告されている.例えば,結晶をロボットアームで拾う方法,磁気を帯びたマイクロロッドで結晶を動かす方法,接着剤を使う方法,光ピンセットを使う方法などである.20)しかし,これらの方法は,私たちの知る限り,汎用法として自動データ収集シ161