ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

ページ
19/80

このページは 日本結晶学会誌Vol57No3 の電子ブックに掲載されている19ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No3

タンパク質結晶学方法論の開発と網羅的解析という2種類のリボソームRNAの会合に関与するタンパク質.S7は,tRNA,mRNAとコンタクトして,おそらくは翻訳の制御に関与するタンパク質.そしてP0,P1(真正細菌ではL10,L12)は,リボソームの機能の高度化に関与するタンパク質であると言えよう.リボソームタンパク質の構造には,おそらくは何億年もかかっただろう生命誕生と進化の歴史が秘められている.つまり,はじめにL2のようなタンパク質が古代のリボソームを形成し,次いで,L5などが5S RNAを会合させ,S7のようなタンパク質が翻訳メカニズムを制御し,最後にL10,L12が,エネルギーと原料の安定供給を可能にしたというようなシナリオが考えられる.リボソーム上でのRNAとタンパク質との関係は,ヌクレオソームやウイルスの場合と大きく異なる.ヌクレオソームでは,ヒストン8量体でできたタンパク質のコアの周りをDNAが巻きついた構造をしており,またウイルスの場合には,タンパク質の殻が核酸を外界から遮蔽している.これに対して,リボソームの場合は,両者の関係はもっと緊密で,いくつかのタンパク質はRNAの鎖に対して複雑に相互作用している.これは,おそらく,原始生命体の頃に,両者が密接な相互作用をしながら同時進化してきたことを物語っているのだろう.3.構造ゲノム科学誕生の頃からSe-Metを使ったMAD法が誕生した時期と重なって,1990年代初頭にStructureとNature Structural Biologyという2つの構造生物学の雑誌が誕生する.構造生物学という言葉はもっと前から存在している言葉だが,現在使われているような意味での構造生物学が誕生したのはこの頃と言っていいだろう.さらに,1994年から1997年に日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)P0P1 Dimer 1P1 Dimer 2P1 Dimer 3図8リボソームのストーク部Structureの構造of.(ribosomestalk.)50Sリボソーム(空間充填モデル)12)に,ストーク部を構成するタンパク質7量体P0-(P1)2-(P1)2-(P1)2を重ねて描いたもの.青色はP0,赤,緑,オレンジは,それぞれP0の異なる部位に結合したP1二量体である.P0,とP1のC末端のアーム部は想像図である.(編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.)かけて,第3世代の放射光施設,ESRF(Grenoble),APS(Argonne),SPring-8(Harima)が誕生し,構造生物学の発展に拍車をかけることになる.2000年に入ると,ヒトゲノムの解読も行われ,世の中はいわゆるポストゲノムの時代に入る.その流れの中で,タンパク質の構造をゲノムワイドで決める構造ゲノム科学の時代が到来する.3.1タンパク3000プロジェクト構造ゲノム科学が目指したものは,研究者によって,あるいは置かれた立場によって異なったが,大体次の2つに分類される.1つ目は,「ある種の研究ターゲットに関与するすべてのタンパク質の構造解析をしようとするもの」で,例えば,病気の原因となるタンパク質群の解析を行い,薬剤の開発に結び付けようとするもの.あるいは,生物の基本的な生命活動に関与するタンパク質群の解析を通して,その機構を理解しようとするものなどがある.今日,放射光施設の課題申請書を読むと,多かれ少なかれ,この方向(すなわち網羅的構造解析という形)での申請が普通になっていると感じる.2つ目は,「タンパク質の全フォールド辞書の作成」という目標で,特にバイオインフォマティクスグループによって強調されていたものである.今日,タンパク質の三次構造がかなりの確率で予測できるようになったのは,この時期に多くの構造が決定されたからにほかならない.そして,構造ゲノム科学プロジェクトによって,タンパク質構造解析法は飛躍的に進歩した.われわれ北大のグループも,日本の構造ゲノム科学プロジェクトであるタンパク3000プロジェクトに参加し,100を超えるタンパク質の構造を決定してPDBに登録した.少ない人数でこの数を達成するためには,さまざまな技術的な開発が必要だった.プロジェクト期間には,北大独自の技術がいくつか生まれたが,その中から,S-SAD法のためのマウント技術と自動構造解析システムについて,今日に至るまでの流れを紹介する.3.2 S-SAD用マウントツールの開発MAD法では,2つ以上の波長で測定したデータを使うが,電子密度の改良による位相の精密化技術が進歩すると,1つの波長だけで構造解析を行うSAD法が可能になった.その結果,2001年にはPDBに登録された異常散乱法による解析のほぼ100%がMAD法によるものだったのが,わずか5年後の2006年にはSAD法の方が多くなった.1波長での構造解析が可能になると(吸収端の前後でデータをとる必要がなくなるので),異常散乱原子としてタンパク質の中にはじめからあるイオウ原子を使った構造解析の可能性が出てきた.イオウを使ったSAD法はS-SAD法と呼ばれるが,ネイティブタンパク質の結晶をそのまま利用することができるので,それを強調して,最近では,native-SAD法という呼び方もされている.この方法は,もちろん,Se159