ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

田中勲PEa)ⅤⅣb)ⅢⅣⅤAS7mRNA図6リボソーム中のS7と,A,P,Eサイトに結合したtRNAとmRNA.8)(Ribosomal protein S7 with tRNAsbound to A, P, E sites and mRNA on ribosome.)S7は5本のαヘリックスからなる疎水コアと,コアから伸びたβリボン,C末のαヘリックスからなる.βリボンの先端はPサイト,Eサイトに結合したtRNAの近傍にまで伸びている.の近傍にあるタンパク質で,直接的あるいは間接的に,タンパク質合成に関与していると考えられてきた.このタンパク質はまた,23S RNAの一次結合タンパク質(ほかのタンパク質の助けなしでRNAに結合するタンパク質)である.非常に重要なタンパク質とみなされていたので,われわれを含め世界のいくつかのグループが結晶化を試みたが成功しなかった.その中で九大の木村グループは,L2をプロテアーゼで限定分解して,疎水コアドメインを取り出して結晶化させることに成功し,われわれはその構造解析を行った.4)後年解析されたリボソームの構造によると,L2の疎水コアは23S RNAの表面近くにあり,N末,C末の鎖が23S RNAの中に深く入り込んでいる(図7a).図7bに示すように,二次構造上,23S RNAは6つのドメインに分けることができるが,このうちの4つのドメインが,L2を取り囲んでいる.このことから,L2はこれらのドメインを集める役割,すなわちRNAフォールディングの足場としての役割を担っていると考えられる.これは,L2が23S RNAの一次結合タンパク質であることに矛盾しない.N末とC末の伸びた鎖は,リボソームの構造形成(23S RNAのフォールディング)時に,疎水コアとともに働くものと思われる.2.3.3リボソームタンパク質L5リボソームタンパク質L5は,3つある5S RNA結合タンパク質の中で最もよく保存されているタンパク質である.私たちはL5の構造解析を行い,このタンパク質が,RNA認識にかかわるRRMモチーフをもっていることを見出した.5)この構造モチーフは,S6やL30などのリボソームタンパク質や,スプライセオソームタンパク質ⅥⅡⅠⅢⅡ図7 a)リボソームタンパク質L2と23S RNA,b)23SRNAの二次構造.(a)Ribosomal protein L2 and 23SRNA, b)Secondary structures of 23S RNA.)a)L2の疎水コア(青)(点線の円内)は23S RNAの分子表面近くに結合しており,そこからN末(緑),C末(赤)のアームが23S RNAの中に深く入り込んでいる.L2の周りには23S RNAのドメインⅡ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴがある.b)23S RNAは,ドメインⅠ~Ⅵの6つの領域に分けられる.L2と相互作用している部分を太く強調して描いた.(編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.)U1Aももつことが知られている.このタンパク質は,5SRNAと23S RNAの間に挟まっており,5S RNAだけでなく,23S RNAにも結合している.このタンパク質の機能は,2つのRNAをつなぎとめることにあると思われる.2.3.4リボソームストーク複合体リボソーム全体の構造解析では,ストークと呼ばれる部位の構造は見えていない.ストークは,開始因子,伸長因子,解離因子などのさまざまな翻訳因子をGTP型として取り込む部位で,GTPaseセンターの一部として非常に重要である.この部位はフレキシブルな性質をもつため構造解析は困難だったが,近年になって,私たちは新潟大学の内海グループとの共同研究で,古細菌リボソームのストーク部の結晶化に成功し,その構造を決定した.11)古細菌のストークは,P0タンパク質(真正細菌のL10に対応)でできた骨格の上に,2量体のP1タンパク質(真正細菌のL12に対応)が3つ,タンデムに,馬乗りになって結合している.この構造解析では,P0もP1も,C末端を切っているが,それを加えると,図8のようなイメージになる.すなわち,リボソームは,その本体のサイズに相当するほどの長い腕をもっており,それが翻訳因子を捕まえて,次々とリボソームに運ぶという機能構造が描写できる.北大のグループは,現在,このP1のC末端のヘリックスと翻訳因子とが結合した構造を解析中である.2.3.5リボソームタンパク質の役割本稿で取り上げたリボソームタンパク質は,リボソーム上でそれぞれ特徴的な役割を果たしている.L2は,23SRNAの構造構築に関与するタンパク質.L5は,5Sと23S158日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)