ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

日本結晶学会誌57,155-162(2015)総合報告(学会賞受賞論文)タンパク質結晶学方法論の開発と網羅的解析北海道大学先端生命科学研究院田中勲Isao TANAKA: Protein Crystallography: Methodological Development and ComprehensiveAnalysisThere have been remarkable developments in the methodology for protein structure analysisover the past few decades. Currently, single-wavelength anomalous diffraction phasing of aselenomethionyl derivative(Se-SAD)is used as a general method for determining protein structure,while the sulfur single-wavelength anomalous diffraction method(S-SAD)using native protein isevolving as a next-generation method. In this paper, we look back on the early applications of multiwavelengthanomalous diffraction phasing of a selenomethionyl derivative(Se-MAD)and introducethe study of ribosomal proteins as an example of the comprehensive analysis that took place in the1990s. Furthermore, we refer to the current state of development of the S-SAD method as well asautomatic structure determination.1.はじめにタンパク質結晶学の分野は,この数十年の間に類まれな発展を遂げた.今日,X線の強度は文字どおり桁違いのものになり,コンピュータの発達,遺伝子工学技術の発展などと相まって,昔はまったく想像もできないような研究が可能になっている.本稿では,特に筆者のかかわってきたタンパク質迅速構造解析に重点をおきながら,この数十年間の発展を振り返る.2.Se-MAD法誕生の頃から図1は,1990年代に行われたシンポジウムで使った資封入管封入管放射光放射光回転対陰極回転対陰極a)19901993料で,当時のタンパク質結晶構造解析で使われた実験装置を示している.1980年代半ばから使われはじめた放射光だが,1990年代初頭には,まだX線源として普通に使われる程にはなっていない.封入管の使用は徐々に減少し,放射光が普及しはじめているが,1993年の時点でも,まだ回転対陰極を使った構造解析が主である.また検出器については,1990年代はじめまで最も多く使われていた4軸回折計とX線フィルムが急激に減少するとともに,代わりにイメージングプレートが使われるようになってきたことを示している.これからしばらくの間,イメージングプレートとマルチワイヤ型の検出器が主流の時代が続き,やがてこれらはCCDにとって代わられることになる.この当時,位相決定法は多重同形置換法(MIR法)が主で,多波長異常散乱法(MAD法)による解析は多くない.図2は,その当時にMAD法で解かれたタンパク質の数と,使われた原子種を示したものである.もちろんさまざまな金属も利用されているが,1990年代に入って,フィルムマルチワイヤTVフィルム4軸マルチワイヤb)4軸TVIPIP1990 1993図11990年代初頭のタンパク質構造解析で使われたX線源(a)と検出器(b).(X-ray sources(a)and detectors(b)used for the protein structure analysis in the early1990s.)マルチワイヤ:マルチワイヤ型検出器,IP:イメージングプレート,TV:TV型検出器,4軸:4軸回折計,フィルム:X線フィルム.図2MAD法で使われた異常散乱原子種.(Anomalousscattering atoms used for the MAD methods.)1980年代後半から1990年代の年度別PDB登録数.日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)155