ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

SHELXLで乱れの解析をしよう!図9bによる回折が加わると構造因子が逆位相のため弱まることになる.そこで,式(3)では回折強度をIc(old)に比例させながら減じている.なお,乱れている溶媒の電子密度は,モデル構造部分に比べて広がって薄まっていることを考慮するのが温度因子Uである.gは,単位胞中で溶媒が占める体積割合に相当する(0≦g≦1).ランダムに乱れている溶媒を補正するもう1つの方法は,プログラムPLATONのSQUEEZEという機能をフィルターとして使うことである.8)これは,乱れた溶媒の影響をPLATONで計算し,その影響を考慮しながら,構造の乱れていない部分だけをSHELXLで精密化する方式をとる.すなわちPLATONでは,モデル構造をもとに,結晶内の空洞部分(およびその体積)を同定する.そして,その空洞内のD合成の密度,つまり乱れた溶媒部分の電子密度Dr s(r)=r o(r)-r c(r)を逆フーリエ変換して,溶媒部分の構造因子F s(h)を計算する.モデル部分の構造因子をFm(h)とすると,(測定データと比較すべき)構造因子の計算値F c(h)は,次式で与えられる.F c(h)=F m(h)+F s(h)(4)ただし,構造因子は一般に複素数なので,プログラムでは位相も含めて計算する.モデル構造をさらに精密化すると,多少とも原子座標が変化するので,PLATON/SQUEEZEによる空洞部分の計算と,SHELXLによるモデル部分の精密化をセットにして数回くり返して,収束させる必要がある.5.無機化合物の乱れの解析5.1乱れた構造の例1(空間群C2)同じサイトを異なるイオンが占有する乱れについて,硫酸鉄(III)水和物を主成分とした無機化合物の例を紹介する.その結晶は単斜晶系で,空間群はC2(No.5)であり,その構造解析のresファイルの一部を表2に示した.9)Na1とFe4とが(一般位置で)同じサイトを占める.そのため,それらの座標も温度因子も共通となるように,EXYZとEADPコマンドで拘束している.Na2は特殊位置であるため,存在確率は100%であるが占有因子は1/2である.Cs1も特殊位置であるが,Na3がそれに非常に近いため,自由変数の4,5番を割り当てて,それらの占有因子の和が1/2になるように抑制している.また,SUMPコマンドを使って,Na1,Fe4,Cs1,Na3の(占有率も考慮した)電荷の総和が+2になるように抑制している.すなわち,2,3,4,5番目の自由変数をそれぞれp2,p3,p4,p 5とすると,構造のほかの部分より(Na1+)p2(Fe4 3+)p3(Cs1+)p4(Na3+)p5の電荷の和が+2であることから,次式が成り立つ.1×p2+3×p3+1×p4+1×p 5=2(5)さて,表2では,p2+p3=1およびp 4+p5=0.5の条件もSUMPコマンドを使って抑制しているが,これは占有因子を例えば「21.0」と「-21.0」を組み合わせることで拘束できる.そこで,自由変数の2,3番を使って,占有因子を次のように設定したとする.Na1 21.0Fe4 -21.0Cs1 30.5Na3 -30.5ここで,Cs1とNa3の占有因子は,Cs1の多重度が一般位置の多重度の1/2であることを考慮している.前の値と混同しないようにするため,自由変数をp 2’,p3’と表すと,(Na1+)p2’(Fe4 3+)(1-p2’)(Cs1+)0.5p3’(Na3+)0.5(1-p3’)の電荷の和は,前と変わらずに+2のはずなので,p 2’+3(1-p 2’)+0.5p 3’+0.5(1-p 3’)=2(6)となる.この式は意外に単純となり,p2’=1.5/2=0.75が得られる.つまり,Na1とFe4の占有因子は,電荷の中性の条件から一義的に定まるものであった.結局のところ,SUMPコマンドは,まったく使う必要がなかった.表2同じサイトを異なるイオンが占めている例1.9)(Example 1 of sharing positions by the ions.)resファイルの内容EXYZ Na1 Fe4 1EADP Na1 Fe4 2SUMP 2 0.0001 1.0 2 3.0 3 1.0 4 1.0 5 3SUMP 1 0.0001 1.0 2 1.0 34SUMP 0.5 0.0001 1.0 4 1.0 55WGHT 0.020600 5.754100FVAR 0.04408 0.75000 0.25000 0.41099 0.08901NA1 6 0.158827 0.419246 0.485910 21.00000…FE4 4 0.158827 0.419246 0.485910 31.00000…NA2 6 0.000000 0.358404 0.000000 10.50000…CS1 5 0.000000 0.929288 0.500000 41.00000…NA3 6 0.119769 0.993621 0.492059 51.00000…(以下省略)(注)1と2で,同じ位置を共有して乱れているNa1とFe4の座標と温度因子を同じに拘束する.3Na1,Fe4,Cs1,Na3による電荷の和を(単位格子全体で中性にするために)2+に抑制する.自由変数の2,3,4,5番目をp2,p3,p4,p5と表すと,2.0=1.0×p2+3.0×p3+1.0×p4+1.0×p5.ただし,鉄の酸化数はFe(III)である.4同じサイトを占めるNa1とFe4の占有因子の和を1に抑制する.1.0=1.0×p2+1.0×p 352回軸上に存在するCs1と,それに非常に近い一般位置のNa3の占有因子の和を0.5に抑制する.0.5=1.0×p4+1.0×p 5[IUCrからの許可を受けて引用]日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)153