ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

SHELXLで乱れの解析をしよう!ここで,2番目の自由変数をp 2とすると,「21.0」は占有因子がp2であり,「-21.0」は占有因子が1-p 2であることを意味する.さて,C25に結合している水素もHFIXコマンドで発生させたとする.すなわち,「HFIX 13 C25」と指定すると,下記のようにAFIXコマンドが設定される.C25…………AFIX 13H25 2 0.0 0.0 0.0 11.0 -1.2AFIX 0ここで,水素の原子座標の初期値が(0,0,0)となっている.このとき,最小二乗法の前にプログラムはPART番号の小さいほうの連結(つまり上記の例ではPART 1)が主な配置と仮定して,水素の座標を計算して置き直す.ただし,これでは,C25に結合している水素原子の乱れの取り扱いは不完全である.厳密な構造モデルを完成させるには,H25AとH25Bに分けて,AFIX(およびPART)コマンドで次のように占有因子も指定し直す必要がある.C25…………PART 1AFIX 13H25A 2 0.0 0.0 0.0 21.0 -1.2AFIX 0PART 2AFIX 13H25B 2 0.0 0.0 0.0 -21.0 -1.2AFIX 0これで最小二乗法をかけると,C25に結合している水素の座標が2通りの場合について,事前に計算し直される.さて,次に構造の乱れの解釈における落とし穴について述べる.図5に,ピリミジノン環をもつ化合物(II)の構造を示した.その結晶中では,環が2つの可能な配座を取り,それに結合しているプロピル基が乱れていた.D合成のピークの位置をもとに,図6aのようなイソプロピルのモデルが得られ,問題なく収束した.しかし,合成の反応条件ならびにNMRスペクトルから,この側鎖はイソプロピルではなく,n-プロピル基で間違いがないことが確認された.そこで,図6bのように,先端の炭素原子を追加して,n-プロピル基が4通りに乱れているモデルを組み立てた.しかし,先端の炭素原子の温度因子が異常に大きくなり,R因子も増加した.X線のデータからは,図6aのモデルが強く支持される一方で,「合理的な構造モデル」の原則に反する.この困った状況の中で,別のモデル(図6c)が可能であることに気付いた.すなわち,n-プロピル基はトランス形ではなくゴーシュ形であった.つまり,環に結合している炭素から妥当な距離に出ていたピーク(1,2あるいは3,4)を,その原子と結合していると思い込んでいたが,実は1と3(そして2と4)が結合していた.このように,分割原子の位置が日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)図5化合物(II).(Compound(II).)ピリミジノン環をもつ.図6化合物(II)の乱れのモデル.(Threepossiblemodelsof disorder in(II).)(a)イソプロピル基2通り,(b)n-プロピル基4通り,(c)n-プロピル基2通り.なお,環の配座も乱れているが,その2面角は小さい.わかっても,それをどのようにつないで分子と見なすかについては,任意性がある.この点は,十分に注意しなければならない.4.結晶溶媒の乱れ4.1対称心近傍でのペンタンの乱れディスオーダーの解析で相談を受けた例を紹介する.有機合成で得られた化合物の結晶は,三斜晶系で空間_群P1,Z=4であった.主な化合物(2分子独立)の構造はスムーズに導出されたが,問題は結晶溶媒の乱れであった.単位格子あたり,溶媒1分子が対称心の近くに存在する.D合成で3つのピークを炭素原子C81,C82,C83(それぞれ占有率1)として,ヘキサンを想定した.ただし,ヘキサンは合成後に精製のためカラムクロマトの展開溶媒として使用したが,完全に蒸発させたはずなので,残留している可能性が低い.結晶化は拡散法であり,ベンゼン溶液に貧溶媒ペンタンの蒸気を拡散させた.さて,結晶溶媒はヘキサンかペンタンか,そしてそれをどうすれば区別できるのだろうか?ペンタンが対称心の近くで乱れていて,ヘキサンのように見えているとすると,末端の炭素原子C81の占有率は50%になっているはずである(図7).そこで,C81の占有率を1から0.5に変えたところ,R因子(ここではI>2s(I)を満たす反射についてのR(F)をさす)が0.046から0.042へとわずかながら下がった.また,ケンブリッジ結晶構造データベース2)で,ペンタンC 5H 12の構造を検_索したところ,P1でペンタンが結晶溶媒として乱れているケースが多数見られた.以上により,結晶溶媒はペン151