ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

大場茂にAとBとする)が混ざっている.そこで,どの原子がAでどれがBに属するのかを考え,対応する原子に例えばC4AとC4Bというように番号をつけて整理する.AとBの存在比は50:50あるいは70:30であるかもしれないが,それは等方性温度因子が同じ程度になるようにだいたい調整する.また,乱れている部分に結合距離や結合角の束縛をかける.そして,まだ見付かっていない分割原子があれば,D合成のピークから妥当なものを拾って加える.これで,合理的な構造モデルが組み立てられたら,第1段階の終了である.次に分割原子を非等方性にする.その際に,対応する(接近した)分割原子の温度因子を似た値に抑制する(SIMUコマンド).もし,それでも置換基内の温度因子のバランスが悪いときには,結合した2原子の結合方向の熱振動が同じ位になるように抑制するか(RIGUまたはDELU),あるいは対応する原子が共通の温度因子をもつように拘束する(EADP).また,insファイル中において,原子座標データを「PART n」で区切って,乱れていない部分(n=0)と,乱れている2つの部分(n=1,2)に分ける.そして,一方の配向の占有因子を,FVARの2番目以降の変数として精密化する.乱れていないと思っていた原子の熱振動だ円体が異様に細長くなっている場合,計算結果のlstファイルに,「may be split(分割可能)」というメッセージとともにそれらの座標の初期値がおそらく示されている.これを利用して,最初は等方性で2カ所に分割し,後に抑制をかけながら非等方性にする.このようにして,熱振動のだ円体の形まで含めて合理的なモデルとして精密化が落ち着いたら,乱れた部OOHOHO(I)図2化合物(I)とその乱れの解析前のモデル構造.(Compound(I)and its model structure before therefinement of disorder.)分に水素原子を導入する(HFIXコマンド).以上,おおまかな手順を述べたが,乱れの構造モデル(特に原子座標)をいかにして導出するかが難しい.例えば,図2に示す化合物(I)の結晶では,ベンジル基-CH 2-C 6H 5に2つの可能な配向が見られた.そして,ベンゼン環はほぼ同一面内で互いに約40°回転していると推定された.しかし,どのようにして,2つのベンゼン環を組み立てればよいであろうか.この場合の状況は,2つの可能な配置AとBの占有率の見積りがそれぞれ0.60と0.40であり,そして,ベンゼン環の配置Aに対する炭素原子が(六角形は歪んでいるが)全部見えていた.そこで,ベンゼン環の配置Aに対する炭素原子について,結合距離および結合角が妥当な範囲内に収まるように,DFIXとDANGコマンドで抑制した.その後,D合成のピークのうち,Bの配置に該当しそうなものを拾い,炭素原子として追加した.さらに,2つの配置で位置が共通として取り扱っていたベンゼン環の炭素原子1個も,モデル構造の自由度を上げるために,AとBに分割した(その際にそれらの原子座標の初期値は本質的に同じで構わないが,発散を防止するために座標の小数点以下をわざと少し変えた).後は,温度因子を非等方性にして,ベンゼン環の対応する炭素原子にはEADP(温度因子を等しくする)拘束をかけた.これで,最終的に図3に示すようなモデル構造が得られた.7)3.3モデル組み立て上の注意図4は,イソプロピル基が2つの配向をもって乱れているときの,原子のナンバリングの例である.C25は乱れておらず,C26とC27がAとBに分かれている.SHELXLでは,原子名は4文字以内という制約があるため,水素原子名は最低限,親原子がどれかわかるようにするとよい.なお,この例でC25の位置は乱れていないが,それに結合している水素H25はAとBに分かれていることに注目してほしい.非水素原子についてPARTコマンドを使って,以下に示すように乱れた部分が分割してあるとする.C25…………PART 1C26A……21.0…C27A……21.0…PART 2C26B……-21.0…C27B……-21.0…PART図3化合物(I)の乱れの解析後のモデル構造.7)(Modelstructure of(I)after the refinement of disorder.)H26A H26BC26AC25H26CH25A C27AH27AH27C H27BH26D H26E H26FC26BC25 H27DC27BH25BH27FH27E図4イソプロピル基の乱れ.(Disorder of isopropyl.)150日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)