ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

クリスタリットCC励起状態CC Excited State複数の金属イオンまたは原子が結合した孤立した構造体(狭義の意味での金属クラスター)や架橋配位子の補助で形成される多核錯体は,金属軌道間の相互作用や配位子軌道との相互作用によりクラスター骨格特有の電子状態が形成され,骨格全体の分子軌道として記述される.骨格内電子遷移に基づく励起状態を総称してCluster Centered(CC)励起状態と呼ぶ.例えば,キュバン型骨格をもつハライド架橋銅(I)四核クラスター[Cu 4(μ3-X)4L 4]では,3 CC励起状態が発光状態として重要であるが,[Cu 4(μ3-I)4L 4]における理論計算では,I -からCu +への電荷移動状態(XMCT)とCu +軌道内のd-s遷移が混合した状態と報告されている.(北海道大学大学院理学研究院化学部門加藤昌子)置換活性/置換不活性Substitution Labile/Substitution Inert金属錯体は,ルイス塩基である配位子がルイス酸である金属イオンへ配位することにより形成されるが,配位結合は共有結合に比べてその結合エンタルピーは小さく,金属錯体の形成は通常,溶液中で配位子置換反応により起こる.Henry Taubeの定義によると,室温溶液中で配位子置換反応が1分以内に終了する場合を置換活性,それ以上の場合を置換不活性と分類されている.金属錯体の安定性は配位子の種類(キレート効果など)にも依存するが,金属イオンのd電子配置や酸化状態でおよその傾向が示されている.八面体六配位形錯体では,d 6電子配置のCo(Ⅲ)錯体は典型的な置換不活性錯体であるのに対し,d 7電子配置のCo(Ⅱ)錯体は置換活性である.d 10電子配置をもつ銅(Ⅰ)錯体も置換活性である.(北海道大学大学院理学研究院化学部門加藤昌子)電子線結晶学Electron Crystallography電子線は,X線に比べて物質との相互作用が4桁程大きく,その特性を利用して極微小領域から物質の単結晶情報を取り出すことができる.特に,透過電子顕微鏡(TEM)像には構造解析できわめて重要な結晶構造因子に関する位相情報が含まれており,これは回折法からは得られないTEM法の大きな利点である.電子線結晶学は,TEM法で得られる回折図形や像,もしくはその両方から結晶構造を決定する手法である.一方,シリカメソ多孔体は,メソスケールでは周期性をもつが原子スケールではアモルファスという構造の特異性から,その構造を「メソスケールの空間格子(Lattice)」と「連続体として近似できる単位構造(Basis)」によって記述される「結晶」としてみることができる.電子線結晶学に基づいたシリカメソ多孔体の三次元構造再構築においてはTEM像が大きな役割を果たす.そこでは,TEM像から結晶構造因子の振幅と位相の情報を抽出し,初期モデルを仮定することなく三次元構造を決めることができる.(JSTさきがけ,大阪大学大学院理学研究科物理学専攻阪本康弘)ケージ型シリカメソ多孔体Cage-type Mesoporous Silica国際純正・応用化学連合(IUPAC:International Unionof Pure and Applied Chemistry)により,ナノメートル領域の細孔はその大きさに依存してミクロ孔,メソ孔,マクロ孔と定義される.中でも,細孔の大きさが2~50 nmのものをメソ孔と呼び,シリカメソ多孔体はそのメソ孔がシリカを骨格とした構造中に規則配列した構造をもつ.シリカメソ多孔体は,界面活性剤やブロック共重合体などの両親媒性物質が構造規定剤として働きシリカオリゴマーと水溶液中で形成した無機有機複合体を焼成することによって得られる.そして,その細孔構造は両親媒性物質が形成するミセルの配列,大きさ,形状に依存する.ミセルの形状は充填パラメータ(g=V/a 0l)を用いて表すことができる.そのうちg=1/3の条件でミセルは球状となり,その球状ミセルが三次元配列する性質を利用して作製したシリカメソ多孔体をケージ型シリカメソ多孔体と呼ぶ.(JSTさきがけ,大阪大学大学院理学研究科物理学専攻阪本康弘)RADDOSEプログラムRADDOSE(J. Synchrotron: Rad. 12, 268-275(2005))は,X線のエネルギー,ビームサイズ,フラックス(単位時間当たりの露光光子数),結晶サイズ,結晶を構成する原子の種類や数などから,回折実験中に結晶が吸収するエネルギー量を見積もることが可能なプログラムである.特に結晶が吸収するエネルギー量は単位重量当たりの吸収量;吸収線量(単位:Gy(グレイ))として表現し,タンパク質結晶の放射線損傷量の定規として用いることが世界的な一般常識である.放射線損傷を受けてグローバルな損傷(主に結晶に起こる変化で回折強度や強度プロファイルに影響を与える変化)やローカルな損傷(電子密度で検出できるタンパク質分子そのものの変化)の度合いを表現することが可能である.(理化学研究所・放射光科学総合研究センター,JST/CREST平田邦生)138日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)