ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

X線自由電子レーザーを利用したタンパク質高分解能無損傷構造解析では,同品質の結晶に同程度の光子数入射をすればいずれの施設でも同程度の回折分解能が得られることを確認したのみである.この際の吸収線量は9.8 MGy/イメージであり,放射線損傷がさほど重篤ではない露光条件であるため,今後,XFELの強度が“桁”で強くなってきた場合には,上記のようなことが観測できるかどうかを確かめる必要があるだろう.4.まとめと展望図5結晶サイズと得られる最Observed大分解resolution能.(limits against crystal size.)結晶サイズ(X線から見て奥行き)の異なる酸化型CcO凍結結晶上から回折像を露光点1カ所につき1枚,合計10枚ずつ取得し,それぞれMOSFLMにより指数付け・積分し,シェルごとの平均シグナルノイズ比2となる分解能を端分解能(d)とし,d*2としてプロットしている.横軸の結晶サイズは対数.0.2 MA 3に比較して非常に大きいと言える.これは単純にCcOの分子量が約400 kDaであるのに対してリゾチームは約18 kDa,という分子の大きさを反映しているとも言える.このように大きな分子の結晶であればあるほど必然的に結晶格子は大きくなるため,大きな結晶を利用することで回折分解能を向上することは有効であろう.確認実験の結果として図5にCcO酸化型結晶のサイズとSACLAのX線を照射したときに得られる回折分解能の関係をプロットした.CcO酸化型の異なるサイズの凍結結晶を準備し,同じ結晶から1パルスXFEL照射で1枚,これを異なる照射点で繰り返して10枚ずつ回折イメージを取得し,それぞれを積分した後,得られた回折強度のシグナル-ノイズ比が2未満になる境界を最大分解能としd*2として結晶サイズ(対数)に対してプロットしてある.この図から明らかなように少なくとも入射光子数を一定にした場合(この実験ではエネルギー10 keV,フォトン数~10 11 /パルス),CcO凍結結晶では結晶のサイズが大きくなるにつれ回折分解能は向上していることがわかる.ただ,論文のレビューアからは大きな結晶は成長過程で質が落ちる,回折実験中に結晶そのものによる吸収が大きくなる,などの理由で大きな結晶だからといって一概に高分解能回折が得られるとも限らない,とのご意見をいただいたことも付け足しておきたい.3.2 XFELの利用により高分解能構造解析が実現できる?今回の結果に関連してよく受ける質問に「XFELを用いて放射線損傷以前に回折データが撮れるならば得られる分解能がシンクロトロン放射光に比較して向上しているのではないか?」というものがある.今回の実験結果日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)新しい光源XFELを用いて,従来のタンパク質のX線結晶構造解析における大きなジレンマを解決することができた.「分子量40万超」の「膜タンパク質複合体である」チトクロム酸化酵素の「高分解能」かつ「無損傷」の構造を決定したことで,「その機能を理解するために重要な」構造情報を得ることができた,とも言い換えることができる.XFELの利用はタンパク質の結晶構造解析に新たな可能性を与え,われわれはその特徴の1つを活用し構造生物学の大きな一歩を踏み出した.現在までにこの手法を光化学Ⅱ(PhotosystemⅡ)の無損傷構造解析に適用することにも成功しており,17)SF-ROXを1つの重要な構造解析基盤技術として確立できたと考えている.次の目標はXFELの極短パルス性を活用し,ポンププローブ時分割構造解析を高分解能で実現することであり,現在その準備を進めている.CcOの酵素反応過程を高分解能ムービーにすることを実現し,XFELを用いてタンパク質結晶構造解析に「時間軸」を与える技術確立を目指したい.謝辞本構造解析はJST/X線自由電子レーザー施設重点戦略課題推進事業「無損傷・動的結晶構造解析による生体エネルギー変換過程の可視化」およびJST/CREST「ミトコンドリア呼吸鎖の構造生命科学―構造がもたらす正確さ」の支援を受け実施した.本実験にご協力頂いたJASRI,RSCエンジニアリングチームの皆様を始めとする関係各位に深く感謝申し上げます.また本稿に関する実験はSACLA利用実験課題(課題番号:2012A8011,2012B8040,2013A8047 and 2013B8052)でデータ収集を行った成果です.文献1)T. Tsukihara, et al.: Science 269, 1069(1995).2)K. Muramoto, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 7881(2007).3)K. Muramoto, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107, 7740(2010).4)H.Aoyama,etal.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA106,2165(2009).5)K. Hirata, et al.: J. Synchrotron Rad 11, 60(2004)[doi:10.1107/S0909049503024129].6)P. O'Neill, et al.: J Synchrotron Rad 9, 329(2002).7)R. Neutze, et al.: Nature 406, 752(2000).8)P. Fromme and J. C. Spence: Curr. Opin. Struct. Biol. 21, 509127