ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

平田邦生,伊藤(新澤)恭子,上野剛,山本雅貴,吾郷日出夫CcO結晶に1パルス(含まれる光子数10 10~10 11個)照射し1枚の回折イメージを取得後,結晶をある量並進・ある角度回転させ,それまでXFEL照射で損傷を受けていない結晶体積に次のXFELを1パルス照射して回折イメージを1枚取得する.これを繰り返して無損傷回折データを完成する方法である.この方法を用いるにあたり実験事前に決定しなければならないことが2点あった.1つは「無損傷構造解析を実現できる結晶上XFEL照射点間の距離」,もう1つは「照射点間での結晶の回転角度ステップ」である.2.2 SACLAで使用した装置実験パラメータ決定の説明の前に今回の実験で利用した装置について触れておく.計画した実験が可能な回折計のポイントは以下のとおりである.1試料結晶をミクロンオーダーで並進させることができること2結晶の回転が可能であること3凍結結晶を用いるため低温吹き付けガス装置が利用できること4数十HzでやってくるXFELの1パルスを切り出して試料に照射できること5回折像を取得するX線検出器を有すること,などである.これらの要求仕様は従来シンクロトロン放射光施設で利用している回折計とほぼ違いがないため,最初の測定時にはSPring-8所内で利用していた回折計をSACLAに持ち込んで利用した.2013年の実験時に利用した装置の外観は図3に示したとおりである.4のパルスの選択に関してはSACLAに備え付けられているパルスセレクタを利用し1パルスのみを結晶に照射することを容易に実現することができた.SPring-8構造生物学ビームラインで利用されている汎用制御ソフトBSS 12)を用いて回折計を制御し測定を実現した.また今回のCcO回折実験ではゴニオメータへの凍結結晶マウントは人間が行ったが,SPring-8で利用している試料結晶自動交換ロボットSPACE 13)を用いて自動で結晶をマウントすることも可能である.凍結結晶はUni-puck(Crystal Positioning Systems図3 SACLA回折計.(Diffractometer for SF-ROX at SACLA.)XFELは図の左(上流側)からやってくる.社)を用いて32個(ピン)ストレージにおいておくことが可能である.このSPACEは測定効率を向上するため,測定後のサンプルピンはソレノイドを利用してゴニオメータ上から落とすことが可能になっている.結晶を回収する必要がない場合には測定にかかる時間を一部短縮できる.2.3凍結タンパク結晶上の放射線損傷伝播距離今回の測定では凍結CcO結晶にXFELを1パルス照射した場合,結晶上どの程度の距離まで放射線損傷が広がるかを明確に知る必要があった.われわれは解析の対象となる酸化型CcO結晶を用いてX線照射による損傷の伝播距離を実験的に決定した.これはSPring-8・理研ターゲットタンパクビームラインBL32XUでの放射線損傷伝播距離の定量化で利用している方法と同じである.14)まず半値全幅1ミクロン程度に集光されたXFELをシリコンのアッテネータで1%程度まで減衰させ,1ミクロンステップで31点,水平方向に移動させながら各露光位置から回折イメージを31枚取得し,各イメージ上に観測された反射スポットの数を取得した.これを「損傷がないときの結晶の回折能」のリファレンスとした.次にこの水平30ミクロンの中心位置に減衰なしのXFELを1パルス照射した.これは「測定に利用する強度のX線で結晶に損傷を与える」ための照射である.最後に最初とまったく同じ条件で31枚の回折データを取得した.最初と最後の合計62枚の回折イメージ上のスポットの数を結晶上の照射位置に対してプロットしたのが図2右である.照射後のプロットでは中心に高強度XFELパルスが照射されているので損傷により最も観測された回折点が少なく,そこから離れるほど回折点の数は照射前のリファレンスに近づいている.このグラフから減衰なしで照射された10 keV(波長約1.24 A)のXFELの中心位置からおよそ11ミクロン程度の位置までが放射線損傷により影響を受けていることがわかる.同様の測定を縦方向についても行った結果,おおむね水平方向と同様の結果を得た.われわれはこの結果にセーフティマージンを付加し,各照射点間の距離を50ミクロンとし実験を行うこととした.減衰なしのXFEL1パルスの照射での吸収線量はプログラムRADDOSE 15)を用い9.8 MGyとなった.参考までにシンクロトロン放射光施設のBL32XUを用いた場合,同じビームサイズ,同じ吸収線量照射では照射位置から3ミクロン程度となりSACLAで得られた11ミクロンよりも狭くなっていた.詳細を検討する測定は行っていないが,凍結結晶に10 10~10 11光子のXFELパルスを照射した後,顕微鏡で観察するとビームサイズより大きな径で結晶がえぐれたような照射痕が残ることが確認できる.このことからXFEL照射の際には通常の放射線損傷に加え,結晶を「削り取る」ような損壊も起きているのではないかと考えている.124日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)