ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

阪本康弘して配列した構造として記述することができる.17)-19)そこでは,メソ構造を構成するすべての多面体の頂点が,4つの多面体の頂点の交点として形成された構造(つまりすべてのケージ型メソ孔が四面体配置した構造)をもち,TCP構造と呼ばれる.上記の4つの多面体は12個の五角形(5 12)と,それぞれ2個(5 12 6 2),3個(5 12 6 3),4個(5 12 6 4)の隣り合わない六角形から形成される.例え_ば,Pm3 n構造は5 12と5 12 6 2の2種類の多面体から形成_され,m3サイト(Wyckoff letter:2a)に51 2が,mmmサイト(Wyckoff letter:6b)に5 12 6 2が配置した構造をもつ_(図3a).また,Fd3 m構造では,5 12 6 4がダイヤモンド構_造(4 3 mサイト(Wyckoff letter:8a))に配列しその隙間_(3mサイト(Wyckoff letter:16b))を51 2が埋めた構造を_もつ(図3b).特にFd3 m構造は図4a,bに示す2種類の多面体レイヤー(layer Aとlayerα)の積層としてその積層パターンを|AαBβCγ|(またはlayer Aのみを用いて|ABC|)と記述できる(図4c).ここでlayer Aは5 12がKagome格子に配列した構造をもち,layerαは,5 12と5 12 6 4からなる.またTCP構造を形成する各多面体は,図3cに示すように多面体中心に位置したメソ孔と辺や面に沿ったシリカ壁からなり,五角形および六角形上に空いた窓を介してメソ孔の三次元ネットワークを形成している.このTCP構造は,FrankとKasperによって合金構造(Frank-Kasper相)を説明するために提案された.20),21)彼らが用いた多面体は配位多面体(coordination polyhedra)と呼ばれ,本解説で紹介した4つの多面体とは双対(dual)の関係にある.そのためシリカメソ多孔体で観察されているTCP構造と合金構造にはスケールは大きく異なるものの多くの類似性が見られる.例えばPm3 _ n構造とFd3 _ m構造は,合金のA15相とC15相の構造にそれぞれ対応する.また,合金以外にも同様の構造を取るものとして,結晶性アルミノケイ酸塩であるゼオライトMEPとMTN(多面体頂点にSi(もしくはAl),辺上にOが配置),クラスレート化合物で見られるI型構造やII型構造がある.__3.2 Fm3m構造とFd3m構造の積層欠陥1つめの例として,SDAとしてカチオン性ジェミニ型界面活性剤([C 18H 37N(CH 3)2(CH 2)3N(CH 3)3]Br 2(C 18-3-1)),共構造規定剤(CSDA)としてカルボキシエチルシラントリオールナトリウム塩(CES),シリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)を用い合成したケージ型シリカメソ多孔体を紹介する.22)ここでCSDAのカルボキシ基がSDAの頭部(正電荷)と静電相互作用し,シラノール基がシリカオリゴマーと縮重合する.組成式はC 18-3-1 :2CES:xHCl:15TEOS:2000H 2O(x=0.8~2.4)である.このとき添加するHCl量に依存してメソ構造が_Fm3 m構造(x=0.8~1.9)からFd3 _ m構造(x=2.1~2.4)へと変化することをTEM法と電子線結晶学を用いた三_次元構造解析より明らかにした.Fd3 m構造は3.1節で紹介したTCP構造の1つで5 12 6 4と5 12からなる.一方,_Fm3 m構造は単一の球形ミセルが立方最密充填(CCP)構造をもつ.つまりこの系はpHの変化によってミセルの性質が変化し2つの最密充填構造間の構造変化が起_こっている.特にx=2.0の中間条件ではFm3 m構造と_Fd3 m構造の積層欠陥が観察された.図5にその積層欠陥のTEM像を示す.これらのTEM像は同一試料を共通の[111]軸に沿って30°傾斜させそれぞれ撮影した.TEM像には3つのドメインが観察され,上下のドメイ図4_Fd3 m構造を構成する多面体レイヤーの構造モデルと積層パターン.(Schematic drawings_of the layersand stacking sequences of the Fd3 m structure.)(a)layer Aと(b)layerαおよび(c)積層パターンの多面体モデル.図5積層欠陥を含んだケージ型シリカメソ多孔体(x=2.0)のTEM像.(TEM images of cage-type mesoporoussilica with stacking faults(x=2.0).)(a)と(b)は同一領域を[111]軸に沿って30°傾斜し撮影した像.118日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)