ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

日本結晶学会誌57,104-109(2015)最近の研究から光合成反応中心と集光アンテナタンパク質との複合体(LH1-RC)の結晶構造京都大学大学院理学研究科竹田一旗,丹羽智美,三木邦夫Kazuki TAKEDA, Satomi NIWA and Kunio MIKI: Crystal Structure of the Complexbetween the Light Harvesting Core Antenna and the Photosynthetic Reaction Center(LH1-RC Complex)For?efficient?use?of?sunlight,?the?light-harvesting?core?antenna?(LH1)and the reaction center(RC)form a supramolecular complex(LH1-RC)in photosynthetic bacteria. We determined thecrystal structure of a LH1-RC complex from a purple bacterium, Thermochromatium tepidum. Thestructure reveals that the RC is completely surrounded by 16αβ-heterodimers. Calcium ions arebound at the periplasmic side of LH1. 32 bacteriochlorophyll and 16 spirilloxanthin molecules forman elliptical assembly in LH1. The pigment geometry involved in the absorption characteristics andexcitation energy transfer is determined. In addition, ubiquinone channels and lipid molecules areobserved in the complex.1.序論「光合成-地球上で最も重要な化学反応」.光合成細1菌の反応中心複合体(RC)の結晶構造の決定)に対して1988年のノーベル化学賞が授与されたとき,スウェーデン王立科学アカデミーが伝える第一報冒頭にこのように記されている.言うまでもなく,光合成は地球上の生物がその生きるためのエネルギーを獲得するための最も重要な反応である.光合成は,光エネルギーを化学エネルギーに変換してNADPHとATPを合成する光化学反応と,NADPHとATPをもちいて炭水化物を合成する炭酸固定反応に分けることができる.光合成の分子機構については古くから研究が行われ,長い歴史をもっている.光合成は高等植物のみならず原始的な光合成細菌でも行われ,光化学反応の仕組みは基本的に同じである.反応に関与するタンパク質も類似しているが,光合成細菌のほうがより単純な分子構造やサブユニット構成をもっているため,理論的な研究や分光学での研究にしばしば利用されてきた.高等植物の光合成は葉緑体で行われるが,細菌型の光合成はクロマトフォアと呼ばれる球殻状の細胞内構造体で行われる(図1a).光化学反応はいずれも,脂質膜に存在するタンパク質およびその複合体が担っている.光合成細菌のクロマトフォア膜には,集光アンテナタンパク質(コアアンテナLH1および周辺アンテナLH2)やRC,シトクロムbc 1複合体(bc1)などのタンパク質複合体が存在する(図1b).光合成の初期過程反応は,最も多く存在するLH2が光エネルギーを捕捉することで始まる.これによって,LH2に結合しているバクテリオクロロフィル(BChl)が電子励起される.励起エネルギーはLH2,LH1,RCの順に移動する.このエネルギーにより,BChl二量体であるRCのスペシャルペアにおいて高エネルギー電子の発生(電荷分離)が起こり,最終的にはRCに結合したユビキノンが還元される.2個の電子と2個のプロトンにより還元型となったユビキノンはLH1-RC複合体の外に移動し,bc1に電子とプロトンを渡す.光合成初期過程の反応機構の解明には,タンパク質結晶学が大きな貢献を果たしてきた.冒頭に示したRCの結晶構造は,紅色光合成細菌Blastochloris viridis(当時はRhodopseudomonas viridisと呼ばれていた)由来のもので,膜タンパク質として初めて構造解析された.1)その構造は,スペシャルペアの二量体化様式をはじめ,キノンを含む補因子群のRC内での相互配置,補因子を取り囲むタンパク質サブユニットとの相互作用など,光化学反応の分子論的な理解に多くの情報を与えた(図2a).2)これらの電子伝達体である補因子群の基本的な構造と分子配置は,植物型の光合成における2つの光化学系(PS)と(とくにPS-IIと)共通性/類似性が高いことが,その後に解析されたPS-I 3),4)やPS-II 5)-7)の結晶構造から明らかになった.これにより,光合成研究における光合成細菌のモデル生物としての優位性があらためて認識されることになった.RCの構造が明らかになって以降,紅色光合成細菌由来のタンパク質を対象として,膜に存在するLH2 8)(図2b)やbc1 9)(図2c),および各種の電子伝達タンパク質などについての結晶構造が報告された.LH1やLH1と複合体を形成した状態のRC(LH1-RC複合体)の104日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)