ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3
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日本結晶学会誌Vol56No3
新刊紹介X線・中性子の散乱理論入門Elementary Scattering TheoryFor X-ray and Neutron UsersD.S. Sivia原著竹中章郎・藤井保彦共訳森北出版㈱(2014)定価本体3,600円+税ISBN 978-4-627-15471-1“散乱強度は次式で与えられる”と記述される教科書が多い.細分化・多様化された回折手法を手に入れやすい価格の教科書にまとめることを考慮すると,仕方のないことではある.一方,全空間群を検索してくれる結晶構造解析プログラムの出現で,回折原理の肝心なところがブラックボックス化されてしまっている. B. E. Warrenの“X-RAY DIFFRACTION”,S. W. Loveseyの“Theory of Neutron Scattering fromCondensed Matter 1 & 2”などで勉強した筆者は少々残念な気持ちになる.そんなとき,書店でふと手にした本が『X線・中性子の散乱理論入門』である.パラパラページをめくると,学生時代に回折を必死に勉強していたころのことを思い出すのと同時に,前述の名著を意識して書かれていることが容易に理解できた.第I部では,丁寧に数式を導出し,かつ,随所に工夫が見られ,直感的に無理なく理解できるようになっている.基礎原理がいかに大切かと再認識すると同時に,“原理を知らなければ,進歩なし”と警鐘を鳴らしていることもわかる.第II部に入ると,ナノマテリアル・ソフトマター・コンポジットマテリアルなどの最新のトピックスを意識した表面の反射率・小角散乱・液体と非晶質などがうまくまとめられている.特に中性子のコントラストマッチング法がますます重要になっていくことが示されている.これは,特定のある情報を消すことであり, X線異常散乱を用いたNull matrix methodに対応する.第III部では,非弾性散乱が簡潔に書かれている.非弾性散乱に割り当てられているページ数が少ないのは,多少不満が残る. TOF(Time-of-flight)の非弾性散乱の原理は難しいが,これから主流となっていくのでほかの専門書に委ねるしかない.数学の苦手な学生にとっては少々敷居が高いかもしれないが,是非,読破してほしい本である.この本の内容をマスターすれば,式からいろいろなことがイメージできるようになるはずである.学生や初心者を対象に書かれているので,放射光・中性子施設等における実習や夏の学校で,教材として使える1冊である.早速,われわれのグループでも,ゼミに使う予定である.そこで,問題となるのが,章末問題がないことである.学生の理解度を高めるためにも入れて欲しかった.この入門書をマスターして,次のステップ(WarrenやLoveseyの名著)に進んでくれる学生が一人でも増えることを願っている.(防衛大学校機能材料工学科阿部洋)日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)211