ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

有森貴夫,玉田太郎図3 Ra-ChiCとAcLYZの構造の比較.(Structural comparisons between Ra-ChiC and AcLYZ.)(A)一次構造の比較.活性中心の酸性残基を★で示す.(B)Ra-ChiCのWT-NAG2の構造.(C)AcLYZの構造.(D)WT-NAG2とAcLYZの構造の重ね合わせ.右は活性中心の拡大図.表1Ra-ChiC変異体の酵素活性.(Catalytic activities ofRa-ChiC mutants.)酵素野生型E141AE141QE141DE141NE162AE162QE162DE162ND226AD226N比活性(U/mg protein)6.770.020.020.030.051.1017.172.031.500.060.04相対活性(%)100.00.30.30.40.816.2253.630.022.20.90.6AcLYZの塩基触媒であるAsp101と立体構造上は同等の位置に存在するにもかかわらず,活性への寄与は低いことが明らかになった.そこでわれわれは,ほかに触媒残基が存在すると考え, Glu141から約8.3 Aの位置にあるAsp226に着目した. Asp226についても同様に, AsnまたはAlaに置換した変異体を作製し,活性測定を実施した結果,今度はどちらの変異体においても, 100倍以上の活性の低下が見られ, Ra-ChiCの触媒反応においてはAsp226が塩基触媒として働くことが示唆された.4.3 Ra-ChiCの触媒残基変異体を用いた活性測定の結果から, Glu141が酸触媒,Asp226が塩基触媒として働くことが示唆された. E141Q-NAG4の結晶構造中では, Gln141は切断部位の酸素原子と直接相互作用できる距離にあるため, Glu141が酸触媒としてプロトンを授与することが可能であると考えられ図4 E141Q-NAG4の活性中心の拡大図.(Enlarged viewof the active site observed in the E141Q-NAG4structure.)る(図4).一方,前述のようにAsp226は求核水と思われる水分子と相互作用している.この水分子は, E141Q-NAG4構造中では-1サブサイトのNAG分子のC1から3.8 Aの距離にある.実際の触媒反応においては,多少のコンホメーション変化を伴うと考えられるため断定できないが,この水分子はC1を求核攻撃できる位置にあると思われる.では, Glu162もAsp226もともにこの水分子と水素結合を形成しているにもかかわらず, Asp226のほうが活性に高く寄与するのはなぜだろうか.その理由の1つとして, Asp226に近接するArg230の存在が考えられる.Asp226はArg230と静電的相互作用を形成している(図4).この相互作用によってAsp226のpKa値は通常より低204日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)