ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

GHファミリー23に属する新奇キチナーゼの構造と機能4.Ra-ChiCの触媒反応機構図2 Ra-ChiCおよびガチョウ型リゾチームにおける(NAG)6結合様式の模式図.(Schemes of(NAG)6-binding pattern for Ra-ChiC and goose typelysozymes.)る-3および+2サブサイトのNAG分子は,トンネル部分からは完全に露出しており, Ra-ChiCとの相互作用は少なく,緩く認識されていることが明らかになった. WT-NAG2複合体構造中のNAG分子の温度因子の平均値を比較しても,-2および+1サブサイトがそれぞれ25.4 A 2 ,18.8 A 2であるのに対し,-3および+2サブサイトではそれぞれ35.1 A 2 , 43.2 A 2と高かった.以上のことから,Ra-ChiCの基質結合サブサイトの数は5つであるが,そのうち両端の2つのサブサイトについては基質認識における寄与は低く,中心の3つのサブサイトが基質認識において重要な役割を担っていると思われる.ここで,ガチョウ型リゾチームと基質結合サブサイトの比較をしてみる.これまでに, GHファミリー23に属するガチョウ型リゾチームの糖複合体の構造は, 1995年に報告されたガチョウ卵白由来リゾチーム(GEWL)の-3~-1サブサイトに(NAG)3が結合した結晶構造8(PDB )コード:154L)と, 2009年に報告されたAcLYZの-3~-2サブサイトおよび+1~+3サブサイトに(NAG)2および(NAG)3がそれぞれ結合した結晶構造9(PDB )コード:3GXR)がある. GEWLとAcLYZの構造は類似しており,重ね合わせた際の対応する168残基のCα炭素間のr.m.s.d.値は0.8 Aだった.これらの結晶構造から,ガチョウ型リゾチームでは6つの基質結合サブサイトの存在が確認されており,ガチョウ型リゾチームとRa-ChiCではサブサイトの数が異なっていることがわかった.また,これまでに,ガチョウ型リゾチームが(NAG)6を切断する場合には(NAG)3+(NAG)3が優先的に産生されるのに対し, Ra-ChiCによる切断においては(NAG)3+(NAG)3と(NAG)2+(NAG)4が同程度に産生されることが共同研究者によって報告されていたが, 5)この切断様式の違いは今回の構造解析結果から図2に示すように説明できる.ガチョウ型リゾチームは6つのサブサイトで(NAG)6を認識し,その中央にある触媒残基により切断するが, Ra-ChiCは主に3つのサブサイトで基質を認識するため,(NAG)6は複数の様式でRa-ChiCに結合し,切断部位にばらつきが生じたと考えられる.日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)4.1 AcLYZとの構造の比較Ra-ChiCが触媒する加水分解反応では,中間体を介さずαアノマーが生成される(アノマー反転型酵素). 5)ガチョウ型リゾチームも同じくアノマー反転型酵素であるが,アノマー反転型酵素の触媒反応には,側鎖のカルボキシル基が互いに8~10 A程度離れた2つの酸性残基が必要であるとされている. 10) 2つのうち一方は酸触媒として働き切断部位の酸素原子にプロトンを与え,もう一方は塩基触媒として働き水分子のプロトンを受け取ることで求核水を活性化する. AcLYZの触媒反応においては,結晶構造とそれを基にした変異体実験の結果から, GHファミリー23に属する酵素において高度に保存されているGlu73が酸触媒, Glu73から約8.5 Aの位置にあるAsp101が塩基触媒として働くとされており, Asp101とAsp90の間に求核水と思われる水分子も観測された. 9) Ra-ChiCとAcLYZの一次構造を比較すると, Ra-ChiCのGlu141とGlu162がそれぞれAcLYZのGlu73とAsp101に対応した(図3A).そこで, Ra-ChiCとAcLYZの結晶構造を重ね合わせ,活性中心を比較してみたところ, Ra-ChiCのGlu141とAcLYZのGlu73は三次構造上においても高度に保存されており,Ra-ChiCのGlu162とAcLYZのAsp101もCα炭素の位置がほぼ重なった(図3D).また, Glu141とGlu162のカルボキシル基間の距離は約8.7 Aであった.これらのことから,Ra-ChiCの触媒反応においては, Glu141が酸触媒, Glu162が塩基触媒として働くことが予想された.一方,三次構造上(一次構造上も)AcLYZのAsp90に対応する残基はRa-ChiCには存在しなかったが, Ra-ChiCの結晶構造中には,AcLYZの求核水と思われる水分子と近い位置にやはり水分子が観測された(図3D).この水分子はGlu162とAsp226の間に位置し,両者と水素結合を形成していた.4.2 Ra-ChiC変異体の活性測定AcLYZとの構造の比較により, Ra-ChiCの触媒反応においてはGlu141とGlu162が触媒基として働くことが予想された.そこで,これらの残基をAla, Gln, Asp, Asnに置換した変異体を作製し,酵素活性測定を実施した.酵素活性は,エチレングリコールキチンを基質とし, 37℃で反応させた溶液のOD420の値を測定することで,比活性を算出した(Schales変法)(表1).まず, Glu141に変異を入れた酵素について活性を測定したところ,いずれの変異体においても野生型と比較して活性が著しく低下した.このことから, Ra-ChiCの触媒反応においてもGlu141は重要であり,おそらく酸触媒として働くことが示唆された.続いてGlu162に変異を入れた酵素についても同様の実験を行った.しかし,予想に反して, Glu162の変異体においては活性の低下はあまり見られず, E162Q変異体に至ってはまったく低下しなかった.このことから, Glu162は203