ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

有森貴夫,玉田太郎数および構造,触媒残基の配置においてガチョウ型リゾチームとは異なった特徴を有していることを明らかにした. 6)本稿では,結晶構造解析結果を中心に, Ra-ChiCの特徴的な基質認識機構や触媒反応機構について紹介する.2.Ra-ChiCの結晶構造解析当初, Ra-ChiC(全長体)を用いて結晶化スクリーニングを行っていたが, 2,000以上もの条件のスクリーニングを実施したにもかかわらず結晶を得ることはできなかった.その要因は, Ra-ChiCの2つのドメイン間の揺らぎが大きいためであると考えられた. Ra-ChiCのキチン結合ドメイン(36~80番残基)と触媒ドメイン(103~252番残基)を繋ぐリンカー部分(81~102番残基)にはGly残基が7個連続した特徴的な配列が含まれている.この領域が生み出すドメイン間の柔軟性は, Ra-ChiCの特長である結晶性キチンの分解に必須であると思われるが,結晶化においては不都合に働く.そこで,キチン結合ドメインを除いたRa-ChiC cat(89~252番残基)を発現・調製し,結晶化に用いることとした(水溶性キチンの分解については,触媒ドメインのみでも全長体と変わらない活性を示す).Ra-ChiC catの結晶化スクリーニングを実施したところ,いくつかの条件で結晶を得ることができたので,結晶化条件の最適化を行い,得られた結晶を用いて放射光施設において1.9 A分解能の回折データを収集した. 7)位相決定はセレノメチオニン置換結晶を用いたMAD法により実施し,最終的に1.9 A分解能においてR=18.5%, freeR=22.9%まで構造を精密化した(以下,この構造をWTと呼ぶ).さらに, Ra-ChiC catの結晶およびRa-ChiC catのGlu141をGlnに置換した変異体の結晶にそれぞれNAGの2糖である(NAG)2および4糖である(NAG)4を浸漬法により取り込ませることで, 2種類の糖複合体構造(以下, WT-NAG2およびE141Q-NAG4と呼ぶ)もそれぞれ2.0 A, 2.15 A分解能でWTと同程度の結晶学的R値まで精密化した.3.Ra-ChiC触媒ドメインの構造3.1全体構造図1にWTの全体構造を示す. Ra-ChiCの触媒ドメインは6本のαヘリックスと1本の3 10ヘリックスから構成されていた. DALIサーバを用いてRa-ChiCの触媒ドメインの類似構造を探索したところ,やはりGHファミリー23に属する酵素が上位に挙がった.中でも大西洋タラ由来のガチョウ型リゾチーム(AcLYZ)は, Ra-ChiCとの構造類似性がより高く,重ね合わせた際の対応する100残基のCα炭素間のr.m.s.d.値は1.4 Aであった.一方, GHファミリー23以外の分子では, GH19キチナーゼも類似性をもつことが示されたが, GHファミリー23のガチョウ型リゾチームのZスコアがおおむね10以上であるのに対し,GH19キチナーゼのZスコアは6~7程度であり,立体構図1 Ra-ChiC触媒ドメインの全体構造.(Overall structuresof Ra-ChiC catalytic domain.)(A)WT構造の正面のリボンモデル図(左), WT構造の側面の分子表面図(右).(B, C)WT-NAG2およびE141Q-NAG4の全体構造. NAG分子のFo-Fc map(2.0σ)を濃い灰色で示す.造においてもRa-ChiCはキチナーゼでありながら,ガチョウ型リゾチームに類似していることが示された.Ra-ChiCの触媒ドメインに特徴的な構造として,α5とα6を繋ぐループ(L-7)が活性中心を覆い,ぽっかりと穴の開いたトンネル構造を形成していることがわかった(図1A右).さらに,糖複合体構造から,基質であるキチン鎖は実際にこの穴を貫通するように結合していることが明らかになった(図1B, C).3.2基質結合サブサイトWT-NAG2およびE141Q-NAG4の構造では,それぞれ-3,-2,+1,+2サブサイトおよび-3,-2,-1,+1サブサイトにNAGの電子密度が観測され,計5つの基質結合サブサイトを結晶構造から同定することができた(図1B,C).これらのサブサイトの外側にはこれ以上NAGが結合できるようなスペースが存在しないことから, Ra-ChiCのサブサイトの数は5つであることが明らかになった.サブサイトごとのNAG分子の認識機構を詳細に観察すると,-1サブサイトのNAG分子はトンネルの内部に完全に埋もれており,広範なファンデルワールス相互作用および多数の水素結合によってRa-ChiCに認識されていた.また,その両側に位置する-2および+1サブサイトに結合しているNAG分子もほとんどトンネル内部に埋もれており,多くの相互作用を介してRa-ChiCに厳密に認識されていることが明らかになった.それに対して,両端に位置す202日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)