ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

日本結晶学会誌56,201-206(2014)最近の研究からGHファミリー23に属する新奇キチナーゼの構造と機能大阪大学蛋白質研究所日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究センター有森貴夫玉田太郎Takao ARIMORI and Taro TAMADA: Structure and Function of a Novel ChitinaseBelonging to GH Family 23Chitinase C from a moderate thermophilic strain Ralstonia sp. A-471(Ra-ChiC)is a novelchitinase which has a catalytic domain sequence similar to goose type lysozymes and, unlikeother chitinases, Ra-ChiC belongs to glycoside hydrolase family 23. We have determined thecrystal structures of Ra-ChiC catalytic domain and its inactive mutant with or without chitinoligosaccharides. These structures indicated that Ra-ChiC has a unique substrate-binding siteincluding a tunnel-shaped cavity. In addition, our mutation analysis showed that not only ahighly conserved Glu141 but also Asp226 located at the roof of the tunnel have quite importantroles in catalysis.1.はじめにキチンは, N-アセチルグルコサミン(NAG)がβ-1,4結合で長く(数百~数千)つながった構造をもち,地球上でセルロースに次いで豊富に存在する多糖類と言われている.自然界ではカニ,エビなどの甲殻類の外骨格中に多く含まれており,菌類・細菌類の細胞壁の重要な構成要素でもある.高分子量のキチンや,その分解産物であるオリゴ糖(4~9糖)および単糖,さらにこれらの誘導体は,抗菌活性,免疫賦活作用,抗腫瘍活性などさまざまな機能をもつことが知られており,バイオマスとしてのキチンの有用性が注目されている. 1)キチンの利用分野は医薬,化粧品,食品,繊維,農業など多岐にわたり,例えばキチンを微細繊維状不織布にしたものは,創傷治癒促進効果を備える創傷被覆保護材として使用されている.また近年では,健康食品・サプリメントとしての「グルコサミン」は身近なものとなっているだろう.しかしながら,キチンは水素結合による分子間力が強固なため,その可溶化および分解は容易ではなく,キチンが資源として活用されているのはわずかで,多くは廃棄物となっている. 2)また,一般的に,キチンの可溶化および分解には水酸化ナトリウムや塩酸,硫酸などの水溶液を要するため,環境への影響が懸念されている.さらに,このような化学的手法による分解では生成物の重合度を制御することも困難である.そこで最近では,キチン分解酵素(キチナーゼ)を用いたキチンオリゴ糖の生産が試みられている.効率的な酵素が利用できれば,環境負荷の低減および産生されるオリゴ糖の重合度の制御が期待できる.キチナーゼの研究は盛んに行われており,これまでにさ日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)まざまな生物種から数多くのキチナーゼが同定されている.これらのほぼすべての分子は,触媒ドメインのアミノ酸配列の相同性から糖加水分解酵素ファミリー(glycosidehydrolase family, GHファミリー)18あるいは19のどちらかに分類されており,ファミリー内では立体構造および触媒反応機構は保存されている. 3),4)しかし, 2009年に共同研究者であるUedaらは,好熱性細菌Ralstonia sp. A-471から,このどちらのファミリーにも属さない新奇のキチナーゼ(Ra-ChiC)を発見した. 5) Ra-ChiCは,(シグナル配列を含め)全長252アミノ酸からなり,キチン結合ドメインと触媒ドメインから構成されるが,触媒ドメインのアミノ酸配列から,キチナーゼとしては唯一GHファミリー23に分類される. Ra-ChiCは,産業利用に有利ないくつかの特徴を有している.まず, Ra-ChiCは50℃程度まで安定であり,アセトニトリル,メタノール,エタノールといった有機溶媒が50%存在している条件下でも高い活性を保持する.また,金属イオンの影響を受けにくく, Mg 2+ , Cu 2+ ,Fe 2+などさまざまな金属イオンの存在下でもほとんど活性に変化が見られない.さらにpHの変化にも強く,酵素反応はpH 6.0付近に最適pHをもつが,分子はpH 5.0~10.0において広く安定である.GHファミリー23に属する代表的な分子はガチョウ型リゾチームであり, Ra-ChiCの触媒ドメインはガチョウ型リゾチームと17%程度のアミノ酸配列相同性を有する.しかしながら, Ra-ChiCはリゾチーム活性を示さず,キチナーゼ活性のみを示す.最近われわれは, Ra-ChiCのX線結晶構造解析および酵素活性測定の結果から, Ra-ChiCは全体構造としては既知のキチナーゼよりもガチョウ型リゾチームに類似しているものの,基質結合サブサイトの201