ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

ページ
58/94

このページは 日本結晶学会誌Vol56No3 の電子ブックに掲載されている58ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No3

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No3

馬場清喜,熊坂崇図4HAG法でマウントした3個の卵白リゾチーム結晶の湿度応答の比較.(Comparison of reversible crystal latticetransformation of three lysozyme crystals by using HAG method subjected to humidity changes.)(a)開始相対湿度87.7%,回復不可能な損傷を受けるまで湿度を下げた.(b)開始相対湿度88.3%,相対湿度67.9%まで下げた後, 92.5%まで上げた.(c)開始相対湿度87.1%,相対湿度69.8%まで下げた後, 90.5%まで上げた.(d)(a)の矢印で示した湿度条件下での回折像.晶表面と内部で生じる含水量の不均一などの影響が劣化の原因となったものと考えられる.一方,本法で用いるコーティング剤は高分子溶液で高粘性かつ低拡散であるため,結晶と湿潤ガスの間の水分のやり取りを穏やかに仲立ちし,従来法に比べて均一かつ緩慢に試料の水分量を調整できるものと考えられる.また,PVA水溶液の濃度は接する気相の蒸気圧と一対一関係にあるため,吹き付けるガスの湿度調整によりコーティング剤の含水率を変化させることができる.そこで, 8%(w/w)に調製した重合度4500のPVA溶液で正方晶の卵白リゾチーム結晶をコーティングして湿度調整実験を行い,緩慢な含水量変化の効果を調べた.(1)結晶間の湿度応答の相関まず,複数の結晶で湿度に対する結晶の応答の再現性を確認した.湿度は0.2~1%/分の速度で変更した. 1つ目の結晶では,結晶が損傷しない湿度の下限を検討した(図4a).その結果, 67.6%RHにて析出した塩の回折が確認され,モザイク幅が拡大した(図4d).この状態から湿度を上げても,損傷の回復は不可能であった.次に,別の2つの結晶についてそれぞれ,結晶が損傷を受ける湿度の前まで乾燥した後,湿度を上げて結晶の質の変化を確認した(図4b, c).いずれも,結晶をマウントしてから80%RHに乾燥するまでは,格子定数は湿度に対し非線形で不定な応答を示した.しかし,その後はその湿度と格子定数の対応は,いずれの結晶も同様で一定の関係が認められた.(2)結晶の湿度への安定性上の実験では,結晶をマウントしてから80%RHに乾燥させるときのみ,湿度と格子定数は非線形関係にあった.この原因を解明するため,コーティングした試料に80.4%RHに固定した気流を吹き付けながら回折測定を行い,結晶の格子の変化を観察した.その結果,開始時は格子長が大きく変化したが, 20分程度かけて徐々に収束し,最終的に一定となった(図5).結晶の周囲をコーティングするPVA溶液は,粘性が高いためゆっくりと濃縮が進み,湿度気流の水蒸気圧と平衡に達するまで20分程度の時間を要した.そして,濃縮に合わせて結晶の格子も収縮したものと考えられる.(1)の実験で初期の80%RHまでの乾燥過程は20分程度の時間であったことから,非線形であった格子長の変化は, PVAが調節した湿度に対して平衡に達していなかったことが原因であると考えら198日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)