ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

馬場清喜,熊坂崇図2 HAG法における実験条件の最適化手順.(A flowchartof the optimization protocol in the HAG mountingmethod.)可塑剤の添加方法は2通りある. 1つはコーティング剤に混合する方法であり,もう1つは結晶化溶媒にグリセロールを添加した後,結晶をマウントする方法である.添加する場合,可塑剤濃度の最適化も必要となる.このためには,まず単に結晶化溶媒とコーティング剤を混合して様子を観察してみる.可塑剤が不足する場合,溶液はゲル化する.逆に過剰な場合,コーティング剤が結晶化溶媒に溶け出す.つまり,混合時にPVA溶液が粘度を保てる状態が,可塑剤の適切な添加量の初めの目安となる.なお,結晶化バッチごとに結晶化溶液の濃度が微妙に異なるケースも多いため,実際に結晶をマウントするときにも最適化を行う.3.3可塑剤濃度の最適化と初期湿度の決定ここでは破壊的な結晶の劣化が起きない範囲に湿度を合わせるため,可塑剤の最適化,初期湿度の決定を行う.条件を最適化したことのない初めての試料の場合,経験的に湿度は82%RHから開始している.まず,コーティング剤ごとすくった結晶を湿潤気流に曝し,その直後から20分間程度,結晶とコーティング剤の様子,回折像(1分ごと程度)を確認する.結晶に外観上の問題が生じると,ほぼ例外なく試料の回折能は低下している.したがって,外観検査で損傷の生じない条件を見出しておくことが大切である.条件が適切でない場合,主に以下の4つの現象が見られる:1結晶化溶液とコーティング剤が分離している, 2結晶表面が溶解する, 3結晶表面にヒビが入る,4コーティング剤が膨潤していく.1の結晶周辺にコーティング剤と分離した溶媒が閉じ込められている場合は可塑剤が不足しているので,増やして再度試みる.2の溶解は可塑剤の過剰によっても生じるため,減らして新しい結晶をマウントする.最適湿度より高すぎる場合には,4のコーティング剤の体積膨張に合わせて,2の溶解あるいは3のヒビが生じやすい.このとき吸湿による損傷をうけやすいので,初期湿度を下げて再度試みる.もともとコーティング剤は作業性を高めるために低粘性で調製しているうえ,マウント時に結晶化溶媒を取り込むために水分量が多くなっていることから,湿度を下げることが多い.しかし,初期湿度より高湿度が適している場合もあり,3のヒビが生じる傾向がある.この場合は湿度を上げて,再度試みる.外観の観察と並行して, 1分おきの回折実験により回折能やモザイク幅の確認も行うと条件検討に結晶を消費しない.コーティング剤は水分輸送を緩衝するため,コーティング剤の水分含量に応じて雰囲気湿度との平衡に数分から数十分を要する.この平衡過程でのコーティング剤の体積変化と回折能変化を観察すると,おおよその最適湿度を推定できる.コーティング剤が収縮しつつあるなかで,いったん回折能が上がったのちに徐々に悪化する場合は,初期設定湿度は最適湿度よりも低い.また,コーティング剤が収縮しつつ,結晶の質が改善していく場合は,さらにより低い湿度が最適な湿度である.一方,高湿度が原因の吸湿による結晶の損傷が回折像から確認できても,回折がまだ確認できるときには,早急に湿度を下げて,乾燥による損傷が始まる湿度の限界を確認できることもある.3.4湿度の最適化以上のような判断基準で,湿度を変更しつつ,結晶の最適湿度条件を決定する.初めは±2~3%きざみで行い,196日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)