ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3
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日本結晶学会誌Vol56No3
湿度調整と水溶性ポリマーのコーティングを用いたタンパク質結晶マウント法解して調製する.重合度4500のPVA溶液は, 8~10%(w/w)濃度に調製すると操作に適した粘度になるため,通常これを用いる.後述するように結晶化溶液中に高濃度の多価イオンを含む場合には,適当な濃度のグリセロールを可塑剤として添加したコーティング剤を用いる.重合度4500の8%(w/w)PVA溶液は,ループに張り付けて瞬間凍結すると氷晶の回折が現れた(図1a-(1)).しかし,室温の状態で相対湿度(relative humidity;RH)92%の気流に20分間曝すと体積が収縮し,濃縮された.これを凍結すると氷晶の回折は認められなかった(図1a-(2)).さらに,コーティング剤中の水分が減ったことで,溶媒由来の散乱も低減された.このように,濃縮されたPVA溶液はグリセロールなど従来の抗凍結剤と同様に溶媒水の水素結合ネットワーク形成が阻害され,高湿度の条件下でも氷晶形成を生じずに凍結ができた.こうして,このコーティング剤と湿度調整の組み合わせで,室温実験と凍結実験を両立できることが明らかとなった.2.2湿度調整装置本実験には,水槽をくぐらせて飽和させた湿潤ガスを乾燥ガスと任意の割合で混合して調湿ガスを生成する自作の分流式湿度調整装置を使用した(図1b).この装置ではデジタルガスマスフローコントローラ(SEC-Nシリーズ:HORIBA STEC,日本)と温湿度センサー(SH71:Sensirion AG,スイス)を使用し,制御や温湿度の読み出しにPCを用いている.また,同じ分流式の装置HUM-1(㈱リガク,日本)の大流量対応型でも,同様の実験が可能である.ところで,試料雰囲気は閉鎖せず,開放系で実験を行っている.試料周りは閉鎖系で構築するほうが,湿度管理は容易だが,ビームラインでの試料交換や湿度調整後の凍結操作などの簡便さのために必要であった.このため,周囲の湿度の影響を受けないように調湿ガスの流量は3 L/分以上に設定している.なお,本稿の実験では,凍結操作時の湿度調整気流からクライオ気流への切り替えは手動で行っていたが,現在はこの操作を自動で行う装置がSPring-8 BL38B1に導入済みである.図1HAG法の概要.(Overview of the HAG mountingmethod.)(a)8%(w/w)PVA溶液(重合度4500)の回折像.(1)そのままループにすくい取り,瞬間凍結したとき,(2)相対湿度92%の湿潤ガスに20分間曝した後,瞬間凍結したとき.(b)自作湿度調整装置の構成と配置図.(c)HAG法による結晶のマウント方法.(1)コーティング剤(PVA溶液)をループに張る.(2, 3)結晶化ドロップ中の結晶をループ中のコーティング剤に張り付ける.(4)結晶は,湿度調整ノズルを設置したゴニオメータ上に設置する.(5)張り付けた結晶はPVAでコーティングされる.(6)最適湿度条件下では,結晶の質を保ったまま結晶周辺のPVA溶液は濃縮される.3.実験方法3.1実験の流れ実験の概要を図1cに示す.まず初めに,結晶化溶媒に適したコーティング剤の選択を行う.次に,コーティング剤をクライオループに少量絡め取り,ただちに結晶を周囲の溶媒ごとすくい取る.その後,回折計に設置するまでの間に,結晶周囲の溶媒とPVA溶液がなじみ, PVA溶液は自然に結晶表面に行き渡りコーティングする.この状態で結晶へ調湿気流を吹き付けながらX線回折実験を行う.これまでの実験結果では,試料(タンパク質の種類,結晶化条件)によって,最適な実験条件(コーティング剤の種類,湿度条件)は異なっていた.この最適な実験条件を見つけるための手順は図2に示している.この後さらに,必要に応じて結晶を凍結するなどの操作を行う.3.2初期のコーティング剤選択PVA溶液は,結晶周囲の溶液条件によっては高分子間の相互作用が生じ,ゲル化することがある.特に,結晶化溶液に高濃度で含まれている硫酸イオンなどの多価イオンはその傾向が強い.ゲルが生じると,結晶の周囲に溶媒が閉じ込められる,結晶が完全に覆われなくなるなどの現象が起こり,水分のやり取りを緩衝する機能を失ってしまう.そこで,ゲル化が生じないかを事前に確認しておき,場合によっては可塑剤として働くグリセロールを適当量添加してゲル化を防ぐ.日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)195