ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3
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日本結晶学会誌Vol56No3
21番目のアミノ酸,セレノシステイン合成の分子機構aeolicus tRNA SecをT7 RNAポリメラーゼを用いて試験管内転写で合成した. tRNA Secの結晶化に成功したが,6 A程度までの分解能の回折しか得られなかった.次に,A. aeolicusのSerRSとの複合体の結晶化を試み,結晶化に成功したがやはり十分な分解能を得られなかった.次に,異なる生物のSerRSとの複合体の結晶化を試したところ,古細菌Methanopyrus kandleriのSerRSとA. aeolicus tRNA Secの複合体の結晶化に成功した. 18)なお, M. kandleriは海底の熱水噴出孔から単離された超好熱性のメタン生成古細菌である.この結晶は立方晶系で大型の結晶の作製に成功したこと, 6.1 Aまでの回折データが早い段階で得られたことから,分解能の改善を目指した. 18)まず,リジン残基をメチル化したM. kandleri SerRSを用いたところ,結晶の再現性が上がったものの分解能は改善しなかった.次に,結晶学的な分子間接触面に点変異を導入することで接触を強化する戦略を試みた.報告されていた古細菌Methanosarcina barkeriのSerRSの結晶構造19)を探索モデルとして分子置換法を行った. SerRSはN末端ドメインとC末端ドメインからなる.非対称単位内におけるC末端ドメインの位置は探索により明らかになったが, N末端ドメインの探索は失敗し, tRNA Secの位置も特定できなかった.さらに, C末端ドメインは結晶学的な分子間接触に関与していないことが明らかになった.このため,塩化水銀との共結晶を用いた重原子同形置換を行った.位相力は低かったものの,分子置換で得られた位相と合わせることにより, SerRSのN末端ドメインの位置を特定し, N末端ドメイン同士の結晶学的な接触領域を明らかにした.結晶学的な接触領域に位置すると思われるアミノ酸残基を選び,それらをチロシンに変異させた5点変異体(R55Y-E58Y-E62Y-R116Y-D118Y)を作製し, tRNA Secとの共結晶化を行った.分解能は4.6 Aまで改善した.さらに重原子同形置換を行い,位相を改善し,その情報をもとにtRNA Secとの結晶学的接触面にさらなる変異(E189R-D193R-E379Y-E383R-E497Y-E499Y)を導入した11点変異体を作製した.リジンのメチル化処理とミクロシーディングを行って大型の結晶を準備し, 4.0 Aまでの回折データを得た.位相を改善するためにテトラシアノ白金酸カリウムをソークしたところ,分解能が向上し,最終的に3.1 Aの回折データを得た.位相は白金の多波長異常分散法で決定した.3.3 SerRSとの複合体の構造SerRSはホモ2量体を形成し,それぞれのサブユニットのN末端ドメインがtRNA Secを結合していた. 17) SerRSとtRNA Secの相互作用は, SerRSとtRNA Serの相互作用と類似しており, SerRSのN末端ドメインがtRNAを識別して結合する可能性を示しているが,セリンを結合するtRNA Secの3’末端はSerRSの触媒部位から大きく離れているため,この複合体が本来の相互作用を反映しているかは疑問が残る.異なる生物種由来のSerRSとtRNA Secを用いたこと日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)が原因と考えられる.3.4細菌tRNA Secの立体構造tRNA Secの二次構造は通常のtRNAと同様,アクセプターアーム, Dアーム,アンチコドンアーム, Tアーム,エキストラアームという領域からなる(図2).立体構造ではDアームとTアームのループ領域が複雑に相互作用し, L字型の構造をとり,長いエキストラアームが突出していた(図6).長いエキストラアームはセリン,ロイシン,チロシンのtRNAに見られ,そのほかのtRNAのエキストラアームはステム領域を含まない短いループとなっている.エキストラアームの長さはtRNA Secが最大で,次がtRNA Serとなっている.また, tRNA SecとtRNA Serの中でも細菌のもののほうが真核生物/古細菌のものより長い傾向にある. A.aeolicus tRNA Secのものはステムが10塩基対あり,既知のtRNAの中で最大であり,ヒトのものは6塩基対である.長いエキストラアームは, SerRSとの相互作用に必要であり, SerRSの本来の基質であるtRNA Serに擬態していると考えられる.細菌のSerRSはより長いエキストラアームを必要とするため, 20),21)細菌のtRNA Secが大型である原因となっている.細菌tRNA SecのL字構造におけるアクセプター-Tアームは合計で13塩基対(アクセプターステム:8塩基対, Tステム:5塩基対)で,通常のtRNAの12塩基対(7+5)より1塩基対長い(図2).また,真核生物/古細菌のtRNA Secは合計の塩基対は同じであるが,アクセプターステムが9塩基対, Tステム4塩基対で異なる.そのため,図6 A. aeolicus tRNA Sec ,ヒトtRNA Sec , tRNA Serの構造比較.(Structure comparison of A. aeolicus tRNA Sec ,human tRNA Sec , and tRNA Ser .)tRNA SecとtRNA SerでDアームの構造が大きく異なる.なお,この結晶構造ではtRNA Serの各先端部はディスオーダーしている. 21)189