ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

21番目のアミノ酸,セレノシステイン合成の分子機構図2 tRNA SecとtRNA Serの二次構造.(Secondary structures of tRNA Sec s and tRNA Ser .)図3ノアシルtRNA合成酵素(aaRS)によりtRNAに直接アミノ酸が結合され,タンパク質の合成工場であるリボソームに運搬される.例えばセリンの場合,セリンのaaRSであるSerRSが,セリンのtRNA(tRNA Ser)にセリンを結合する(図3).一方, Secには固有のaaRSがないため, SerRSを流用する. SerRSがtRNA Secにセリンを結合し,続いてtRNA Sec上でセリンがSecに変換される(図3). 2)この変換*3真核生物/古細菌型と細菌型のセレノシステインの翻訳系,および標準アミノ酸の翻訳系.(The Sectranslation systems in Eukaryotes/Archaea and Bacteria,and that of the standard amino acid.)転移RNA(tRNA):転移リボ核酸(transfer RNA)の略号. RNAの一種で, A, U, G, Cが70~100個鎖状に連結したものである.アミノ酸ごとに1~数種類のtRNAが存在する. tRNAはそれぞれ対応するアミノ酸を3’末端に結合し,タンパク質合成工場であるリボソームまで運搬する. tRNAはアクセプターアーム, Dアーム,アンチコドンアーム,エキストラアーム, Tアームの5つの領域から構成されている.それぞれのアームは,向かい合う塩基同士が対合した二重ら旋構造の領域(ステム)と,先端の二重ら旋をとらない領域(ループ)をもつ.アクセプターアームの先端にはアミノ酸が結合し,アンチコドンアームの先端の3塩基はアンチコドンと呼ばれ,リボソーム内でmRNAのコドンと対合する. DアームとTアームが三次元的に相互作用してL字型の立体構造をとり, L字からエキストラアームが突き出す.日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)メカニズムは,ヒトを含めた真核生物と古細菌のグループと細菌のグループではまったく異なる.真核生物/古細菌では,リン酸化酵素PSTKがセリンをリン酸化し, 3)SepSecSがリン酸化セリンをセレノシステインに変換する. 4)一方,細菌では1つの酵素SelAが,直接セリンをセレノシステインに変換する. 5)このとき,セレノリン酸合成酵素(SPS)が合成するセレノリン酸をセレンの供与体として用いる. 6)1.4これまでの研究背景セレノシステインの研究は古くから行われており, 1990年前後に細菌のtRNA SecやSelA, SPSなどの遺伝子が発見され, 7) SerRSを介した合成が明らかになった. 5),6)真核生物/古細菌ではtRNA SecやSPSの研究は進んでいたものの,セリンからセレノシステインの合成は不明であった.2000年代になり, PSTKとSepSecSが相次いで発見された. 3),4)続いて速やかな結晶構造解析がわれわれを含むいくつかのグループで行われ, 8)-13) 2010年までに真核生物/古細菌のセレノシステイン合成機構はほぼ解明された.一方,細菌では遺伝子の特定後,結晶構造解析までに時間がかかっており, 2009年にわれわれがSPSの結晶構造を報告したものの, 14) SelAとtRNA Secの構造は未知であり,細菌におけるセレノシステイン合成の反応機構や基質識別機構は不明であった.2.SelAの結晶構造2.1背景SelAは細菌のセレノシステイン合成酵素で,補因子としてピリドキサールリン酸(PLP)を結合している. PLPはビタミンB 6の活性型であり,主にアミノ酸代謝を担う酵素などさまざまな酵素の補因子である. SelAはPLPをもつ酵素の最大グループである, Fold-type-I PLP依存酵素スーパーファミリーに属する.このグループの酵素のほとんどは2量体または4量体(2量体の2量体)として機能するが, SelAは10量体である点が特徴的である. 15)各サブユニット* 4の大きさはタンパク質としては平均的な50 kDaであるため,標準的なタンパク質の10倍程度であ187