ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

草野圭弘,福原実図10酸素2 vol%の混合ガス中で熱処理した試料において,ムライト粒子に析出したε-Fe 2O 3粒子のTEM像.(TEM image ofε-Fe 2O 3 particles attachedto mullite in the sample heated in N 2/O 2=98/2.)ε-Fe 2O 3の粒子形態および大きさ,ムライトとの結晶学的方位関係は,焼成時の酸素分圧に依存する.図10に,酸素2 vol%の混合ガス中で熱処理した試料のTEM像を示す.ε-Fe 2O 3は, 0.3×0.1×0.8μm 3のデンドライト状となり,ムライトにエピタキシャル成長している.図10のEDパターンは,ムライトの[31 _ 0]晶帯軸(または[1 _ 30]晶帯軸)およびε-Fe 2O 3の[001]晶帯軸であり,両相の結図11試薬を用いて作製した「緋襷」模様.(Artificialhidasuki pattern produced with chemical reagents.)アルコールに分散したKClを備前焼粘土表面に塗布し,大気中にて1250℃まで熱処理した後,1℃/minで冷却した試料の表面写真.試薬による「緋襷」模様の作製が可能となった.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.晶学的関係は, c _ m⊥(110)ε,(130)m(または(310)m)//(13 0)εであることを示しており, 3c m ? 2d(110)εおよびd(130)m(またはd(310)m)? d(130)εの関係である.酸素1 vol%の場合と同じく,(130)m(または(310)m))⊥(001)εの関係は存在するが, bεが60°回転して(110)ε//c mとなり,両相の方位関係が変化することがわかった.なお, EDパターンでは,ムライトのa軸とb軸の区別ができなかったため,可能な面指数を記述した.ε-Fe 2O 3は,ヘマタイトやマグヘマイト(γ-Fe 2O 3)などの酸化鉄に比べると,物性や合成法があまり知られておらず,単相の合成も容易ではない.伝統セラミックスの中での生成条件を詳細に解明することができれば,ε-Fe 2O 3単結晶薄膜などの作製が可能になると信じ,詳細な研究を続けている.7.応用図12鉄を含むガラスとコランダムから作製した黄赤色試料.(Yellowish red powder synthesized from ironcontaining glass and corundum.)鉄を含むガラスとコランダムを熱処理し,ヘマタイトを析出させた試料(a)およびこれを大気中にて1100℃で2 h加熱した試料(b)の写真.再加熱による色の変化はなく,高温用赤色顔料として使用することが可能である.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.これまでの研究結果を基に,「緋襷」模様を人工的に作製することを試みた.図11に,備前焼粘土表面に,アルコールに分散させた塩化カリウム(KCl)を塗布し,大気中にて1250℃で焼成した後, 1℃/minで冷却した試料表面写真を示す.稲わらの代わりに試薬を用いて「緋襷」模様の作製に成功し,その色調も冷却速度および酸素分圧で制御することが可能になった. 11),16)「やきもの」の彩色方法には,下絵付け(釉の下),上絵付け(釉の上)または色釉などがある.赤色の彩色としてよく知られている方法が,柿右衛門様式でよく知られている赤絵である.赤絵は,ヘマタイトを含む上絵付けであるが, 1300℃付近で本焼成したやきもの表面に上絵の具を塗布した後,約800℃で焼き付けられる.しかし,熱処理温度が高くなるとヘマタイトの粒成長が起き,赤色は紫から黒色に変化する.一方,備前焼「緋襷」模様の赤色は,ヘマタイトがコランダムにエピタキシャル成長することで形成するため,ヘマタイトの凝集や粒成長が起きず,1250℃の高温焼成でも鮮やかな赤色となる.さらに,高温用赤色顔料の開発を試みた結果を図12に示す. 1.1 wt%の鉄イオンを含むソーダライムガラスに184日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)