ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

草野圭弘,福原実棚板やほかの作品との溶着を避けるため稲わらが用いられる(図2).これらを1200℃付近で焼成すると,稲わらと接触していた部分に赤色模様の「緋襷」が現れる.稲わらは,燃焼した後,主成分がクリストバライト(SiO 2)の灰となり,これが溶着防止材として作用する.備前焼の陶芸家は,「緋襷」模様は備前焼粘土と稲わらの反応により形成することを桃山時代には知っていたと思われる.この赤色は,柿右衛門様式に代表される上絵付けの原料に用いられる材料と同様,ヘマタイト(酸化鉄(III),α-Fe 2O 3)に起因することが後に知られることになった. 6)-10)しかし,このヘマタイトの析出過程の詳細および微構造は明らかにされず謎のままであった.われわれの研究グループは,「緋襷」の微構造について透過型電子顕微鏡を用いて明らかにし,模様の形成過程をモデル実験により検討した.その結果,「緋襷」模様は非常にユニークな結晶成長を経由して形成すること,また焼成時の酸素分圧の違いにより,鉄の形態が変化することが明らかになった.4.「緋襷」模様の形成過程実験に用いた粘土は,備前市観音地区で採掘され,水簸し乾燥した後,粉砕・混合して100μm以下の粒子を出発原料(備前焼粘土)として使用した.これを加圧・成形してペレット状試料(径20 mm,厚さ約2 mm)とし,その上に稲わらを置き,種々の酸素分圧下にて,室温から1250℃まで1℃/minで昇温した後,急冷または800℃まで種々の速度で冷却した.備前焼粘土中には鉄分が多く含まれ, Fe 2O 3に換算して~3 wt%の鉄分が含まれている. 3)一方, 1000℃で熱処理した稲わら中にはケイ素(84.0 wt%)に次いでカリウムがK 2Oとして約12.7 wt%存在している.図3に,備前焼粘土ペレットの表面に稲わらを置いて1250℃で熱処理した後,種々の速度で冷却した後の試料の表面写真を示す.(a)は,備前焼粘土のみを熱処理した後, 1℃/minの速度で冷却した試料(素地)である.稲わらがない場合,ざらついた黄褐色となり,冷却速度の違いによる色の変化はなかった.(b)は備前焼粘土と稲わらを熱処理し,急冷した試料である.試料表面には,光沢透明のガラス相が生成しているが,赤色は示さなかった.(c)および(d)は,加熱後に10℃/min(c)および1℃/min(d)の速度で冷却した試料である.いずれも赤色を示し,冷却速度が遅いほど赤色の色調も増すことがわかった.以上の結果から,「緋襷」模様は備前焼粘土と稲わら中のカリウムが反応することにより形成すると考えられる. 6),9),10)図1備前緋襷茶碗.(Hidasuki bowl for tea ceremonies.)岡田輝作製.図2焼成前の窯の内部の様子.(Green Bizen stonewareinside a kiln.)釉薬を施さずに焼かれるため,重ねて詰められる.作品を置く棚板やほかの作品との溶着を避けるため稲わらが用いられる.図3焼成後の試料の表面写真.(Colors of samples afterheating.)備前焼粘土と稲わらを焼成した備前焼粘土のみを大気中にて1250℃で焼成した後, 1℃/minで800℃まで冷却した試料(a),備前焼粘土に稲わらを置き, 1250℃で熱処理後,急冷(b), 10℃/min(c)および1℃/min(d)で冷却した試料の表面写真.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.180日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)