ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

日本結晶学会誌56,179-185(2014)産業界で活躍する結晶学(3)備前焼模様の微構造と形成過程倉敷芸術科学大学芸術学部岡山理科大学工学部草野圭弘福原実Yoshihiro KUSANO and Minoru FUKUHARA: Microstructureand Formation Process of Characteristic Patterns on BizenStonewareBizen stoneware, with the characteristic reddish hidasuki or“firemarked”pattern, is one of Japan’s best known traditional ceramic works ofart. We investigated the microstructure and color-formation process inBizen stoneware, and discovered that the hidasuki pattern resulted fromthe precipitation of corundum(α-Al 2 O 3)and the subsequent epitaxialgrowth of hematite(α-Fe 2 O 3)around it in a~50μm-thick liquidspecifically formed in the ceramic surface. The epitaxial compositesinclude hexagonal plate-likeα-Fe 2 O 3 /α-Al 2 O 3 /α-Fe 2 O 3 sandwichedparticles. At low oxygen partial pressures,α-Fe coated graphite, Fe 3 Pandε-Fe 2 O 3 were also formed to appear.1.はじめに日本の「やきもの」利用の歴史は古く,約16000年以上前に作られた土器も発見されている. 1)また,日本全国各地にやきものの産地が存在し,その土地特有のやきものが作り続けられている.一方,趣味としてやきものを作るアマチュアも多く, 260万人以上の人がやきものづくりを楽しんでいる. 2)やきもの,特に一地域で作られるやきものの製造技術は伝承によって伝えられているものが多く,文献として残されているものは少ない.このことがやきもの製造技術の保存・発展に対して大きな支障となっている.一方,やきものには使用する粘土の産地や焼き方の違いによって製品に種々な違いが現れ,やきものは科学的な研究対象とすることが難しい分野とされてきた.しかし,近年の各種機器分析法の進歩により,従来難しいとされてきたやきものに現れる色や組織を分析することが可能となっている.研究対象となることが少なかったやきものの種々の機能や呈色の発現機構の解明を進めることにより,それらの生成機構や,新たな物質の発見の知見を得ることができると思われる.本稿では,やきものの例として備前焼をとりあげ,そひだすきの表面に現われる赤色の「緋襷」をはじめとする新たに見出された物質の生成機構の研究結果を紹介する. 3)-16)2.備前焼の歴史備前焼は,六古窯(信楽,常滑,瀬戸,越前,丹波,備前)の1つであり, 5世紀後半に朝鮮半島から伝わった古墳時日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)代の須恵器が発展した約1000年の歴史を有する伝統的なやきものである.備前焼は無釉焼き締め陶と言われるやきもので,釉薬を施さずに一回の焼成で完成される.焼成後の作品の表面には,さまざまな色の模様が現れるために「土と炎の芸術」とも称され,そのシンプルな美しさから茶道などで珍重されてきた.安土桃山時代には,千利休が茶道具に備前焼を好んで使用したとされ,茶の普及とともに備前焼も全国で使用されるようになった.しかし,江戸時代に入り,加飾したやきものが賞用されるようになった.一方,備前焼は水甕や擂鉢などの日用雑器が中心となり,衰退の一途をたどることになった.昭和に入り,備前焼作家の金重陶陽(1926-1989,人間国宝)らにより桃山調の備前焼が再現され,再び注目されることになり,今日に至っている.3.備前焼模様備前焼模様には,窯焚きの燃料として用いられる赤松の灰と備前地区の田の下から採掘された粘土(以下,備前焼粘土と略)との反応により現れる黄色模様の「胡麻」,灰や炭に埋もれた場所に現れる「窯変」や黒やグレーの霧のような「桟切り」,赤色模様の「緋襷(火襷)」,強還元の焼成により現れる「青備前」,豊臣秀吉が好んだと言われる「金・銀彩」などがある.図1に,備前焼を代表とする特徴ひだすき的な赤色模様の「緋襷」を示す.この模様の名前は,緋色の襷模様に由来するが,炎のような模様であることから「火襷」とも表記される.備前焼は,釉薬を施さずに焼かれるため,作品は詰めて重ねて焼かれ,その際には作品を置く179