ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3
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日本結晶学会誌Vol56No3
門馬綱一が低くなるので,まず間違いなく割当てに失敗すると言ってもよい.そのような場合でも,電子密度分布そのものをVESTAで可視化すれば,図5に示したように,それらのサイトを明瞭に確認できることが多い.擬対称がある構造の場合には,空間群の判定を誤ることがあるが,この場合も,可視化により擬対称をもつサイトの分布がわかれば,より低対称なサイトの有無を判断しやすいであろう.今吉石中の水素位置については,差フーリエ法により導出した. VESTAでは, SHELXLのLIST 3命令で作製した観測/計算構造因子のテーブル(*.fcf)から直接,三次元の差フーリエ図を作製できる.ゼロ次元のピーク位置データや二次元マップに比べ, 3D可視化では,立体的な水素結合の妥当性をはるかに判断しやすく,水素位置とゴーストの区別が効率良く行える.水素位置が見つかったら,ピークサーチによりピーク位置を読み取り, *.insファイルに追加すればよい.ただ, *.insにサイトを追加するまでの操作性はまだ煩雑で,この部分は将来的な課題の1つである.構造解析に特化したShelXle 20)やOLEX2 21)などのソフトウェアと適宜使い分けるとよいであろう.最終的な構造精密化の結果, CO 3とB[OH]4サイトの占有率はどちらもほぼ1であった. EDSによる分析では少量の硫黄が検出されたが,これはSO 4としてB[OH]4サイトを置換する.B[OH]4四面体の向きは確率1/2で完全にディスオーダーしており, CO 3の配向にもごくわずかにディスオーダーの痕跡が認められた.一方, CO 3とB[OH]4サイト間での置換によるディスオーダーは確認されなかった.炭素と水の含有量については, TG-DTAによる質量変化からも見積られ,単結晶構造解析の結果とよく一致することが確かめられた.これらの結果を基に,前述の理想式が決定された.3.VENUSシステムの新機能3.1 MEM解析ソフトウェアDysnomia主なMEM解析プログラムにはMEED, 22) PRIMA, 1)Enigma, 23) BayMEM 24)などがあり, Dysnomia 5),6)は, PRIMAの後継として,新規に書き起こしたC++プログラムである. Dysnomiaには次の新機能が追加されている.1.複数の次数の一般化制約条件, 25)2.格子面間隔dに基づく重み付け, 26)3.CambridgeのMEMアルゴリズム, 27)4.L-BFGSアルゴリズム, 28)5.離散フーリエ変換(DFT)と高速フーリエ変換(FFT)の自動切り替え,6.OpenMPによる並列計算.1~4はMEM解析の結果を改善する効果があり, 5と6は計算を高速化する. X線回折データのMEM解析では,一般に低Q領域の1~2本の反射の残差が突出して大きくなり,その分,高Q領域の反射に対して過剰にフィットさ図6 TaurineのMEM解析データ6)における情報エントロピーSと制約条件Cの関係.(Electron densitydistribution in imayoshiite calculated by the chargeflipping method.)(a)ZSPA,(b)Cambridge. F:結晶構造因子,λ:ラグランジュの未定乗数.れる傾向がある.これはMEMで推定された電子密度にノイズが入る主要原因となり,機能1, 2はその改善に有効である. MEMのアルゴリズムにはさまざまな種類が開発されているが,電子・核密度の解析に適用されているアルゴリズムとしては,ゼロ次元単一ピクセル近似(ZSPA)29)が最も一般的である. Dysnomiaでも標準アルゴリズムとして採用したが, ZSPAでは近似解しか求まらず,厳密なエントロピー最大の条件を満たさないことが指摘されている. 24)厳密解に収束するアルゴリズムとしては,Cambridgeのアルゴリズムが知られているが,従来はBayMEMと商用ソフトウェアMemsys 27)の組み合わせが必要であった. Dysnomiaでは, Cambridgeアルゴリズムに加え,同じく厳密解に収束するL-BFGSアルゴリズムを新たに実装した. Dysnomiaの実装では, CambridgeよりL-BFGSのほうがはるかに少ないサイクル数で収束する. L-BFGSは各サイクルの計算量が多いため,実際の計算時間はサイクル数の差ほどに大きくはないが,手軽に厳密解をチェックできる意義は大きい. ZSPAとCambridgeアルゴリズムで得られた解に対して,情報エントロピーSと制約条件Cの関係を図6に示す.エントロピー最大の条件では,電子密度ρや結晶構造因子FによるSとCの偏微分量が,一直線上に揃わねばならないが, 24) ZSPAではその条件が満たされていない.多くの場合,データ自体や解析の確度に比べて,アルゴリズムの差による電子密度の差は十分に小さく,その差が問題となることは少ない.しかし,例えば事前情報にフラットな密度ではなく,構造モデルから計算した密度を用いる場合, ZSPAでは初期密度近傍にしか収束しないため,注意が必要である.3.2 VESTAの新機能と課題VESTA 3.1.2以降では, International Tables for Crystallographyvol. Aに掲載されている,各空間群の等価点の位置を示す図(general position diagram)の作製が可能になった(図7).実はこの機能,現在編纂作業が進んでいるInternationalTables for Crystallography vol. Aの第6版のために実装176日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)