ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

結晶学における可視化ソフトウェアの開発と応用例SO 4, SO 3, CO 3, B[OH]4, H 2Oなどである.M[OH]6八面体とCaの配位多面体がc軸方向に連なり,それらの空隙に陰イオンや水分子が含まれる(図4).また,複数種類のゲスト分子が秩序配列することで, c軸方向,ないしc軸とa軸の双方に格子定数が倍となった超構造をとる種類もある.重量換算にして半分近くもH 2Oを含む不思議な鉱物であるが,水素結合ネットワークのお陰で,常温でも安定な結晶として産出する.今吉石は,三重県鈴鹿市から発見された, Ca 3Al(CO 3)[B(OH)4](OH)6・12H 2Oなる理想組成をもつ鉱物であるが,その組成を決定するにあたって測定上問題があった.EPMAによりホウ素を定量するには,波長分散型検出器(WDS)を使用した慎重な分析が必要であるが,前述のように,今吉石は半分近くが水であるため,電子ビームに対して不安定でWDSでの定量は不可能である.そこで,プローブ電流を抑えられるエネルギー分散型検出器(EDS)を用いて組成分析が行われたが, EDSでは炭素とホウ素の両方とも定量ができない.しかも,理想組成の決定には定量分析だけでは不十分であり,ゲスト分子の配列に関する情報も欠かせない.例えば, CO 3とB[OH]4は別サイトに別れるのか,同一サイトをランダムに置換してディスオーダーするのか?あるいは, H 2Oもゲストサイトに入り得るので, H 2Oの占有率が過半数を超えるサイトが存在するのか?それらの要素によって,端成分の理想組成をどう定義すべきかが,まったく変わってしまうのである.そこで,まずは試料の消費量が最も少なくて済む,単結晶X線構造解析を行い,結晶構造から,ホウ素の含有量と,ゲスト分子の分布の両方を規定できないか,試みることとした.単結晶X線回折では倍格子の存在を示す超格子反射は観察されず,格子定数はa=11.0264(11), c=10.6052(16)A,ラウエ群は6/mであった.同等の周期をもつエトリング石グループの鉱物では,骨格構造はP6 3/mの擬対称をもつが,これまで報告された構造は,いずれも対称心のないP6 3の構造をとる. Chrage flipping法により得られた今吉石の電子密度を精査したところ,やはりP6 3の対称性をもち, CO 3とB[OH]4が明確に別サイトに別れていることが明らかとなった.さらに,B[OH]4四面体の向きには上下2通りあり,それらが無秩序配列していることが判明した(図5).このように,対称心の有無や,サイトのオーダー・ディスオーダーなどをいっさい仮定せずに,解析できることがcharge flipping法の大きなメリットである.Charge flipping法の解析プログラムにSuperflip 17)を用いる場合,電子密度データの対称性から,最も合理的な空間群を導出してくれる.得られた電子密度データをEDMA 18)で処理すれば,電子密度ピークの高さに応じて原子を割当てた初期構造モデルがSHELXL 19)の入力ファイル(*.ins)として得られるが,軽元素については割当てに失敗することも多い.特にディスオーダーサイトについては,電子密度図4エトリング石グループのトーマス石15)(a, b)とエトリング石16(c)の)結晶構造.(Crystal structures ofthaumasite(a, b)and ettringite(c).)図5Charge flipping法により解析した今吉石の電子密度分布.(Electron density distribution in imayoshiitecalculated by the charge flipping method.)日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)175