ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

特集:鉱物学と結晶学日本結晶学会誌56,173-178(2014)結晶学における可視化ソフトウェアの開発と応用例国立科学博物館地学研究部門馬綱一Koichi MOMMA: Development of Crystallographic Visualization Software and itsApplicationFeatures of the three-dimensional(3D)visualization software VESTA and a program formaximum entropy method(MEM)analysis Dysnomia are reviewed. VESTA has a unique featureto simultaneously visualize crystal, volumetric and morphology data. Multiple numbers ofcrystal structure data can be overlaid and compared in the same 3D space. Two examples ofhow these features are utilized in the X-ray crystallographic study are presented. In Dysnomia,several new features are implemented for improvement of the results of MEM analysis and betterperformance of calculation. New features in the latest version of VESTA are also explained,and some thoughts on the future of crystallographic visualization software are discussed.1.はじめに20世紀初頭, X線結晶学の黎明期には,実測の回折強度に合う原子配列の計算には,数日から数カ月単位の時間を要した. 1960~1970年代,大型計算機が各研究機関に普及すると,この状況は一変する.そして今や,携帯電話でさえ,当時の数千倍の処理能力を備える時代が到来した.計算量とデータ量の飛躍的増大に伴い重要性を増したのが,数値データから視覚データへの変換である.結晶学に関連したところでは,とりわけ,電子・核密度分布を直接解析する技術である最大エントロピー法(maximumentropymethod:MEM)において,電子・核密度と結晶構造モデルとの直接対比が欠かせない.そうした背景から, MEM解析や三次元(3D)可視化のためのソフトウェア群としてVENUSシステムの開発が2001年にスタートし,著者も10年ほど前から開発に携わるようになった.VENUSシステムは, PRIMA(MEM), VICS(結晶構造の可視化), VEND(電子・核密度の可視化)のパッケージとしてデビューし, 1),2)その後,機能の追加や統合を経て,現在では, VESTA(可視化), 3),4) Dysnomia(MEM), 5),6) ALBA(最大エントロピーパターソン法), 7) Alchemy(ファイル変換ユーティリティー)8)などからなるパッケージへと成長した.将来的には, ALBAの機能もDysnomiaに統合する予定である. VESTAの可視化機能は, MEMだけでなく,差フーリエ法や,その後考案されたcharge flipping法9),10)など結晶学のあらゆる場面,さらには電子状態計算などの分野に,活躍の場を広げている.そこで本稿では,拙作ソフトウェアの具体的な使用例と機能紹介を中心に,可視化ソフトウェアに残されている課題や,開発の方向性についても考えてみたい.日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)2.結晶構造解析における可視化結晶構造を可視化するツールは数多くあるが, VESTAのユニークな点は,結晶構造と電子・核密度,結晶外形を組み合わせたり,複数の結晶構造を重ね合わせて,一致度を比較したりできることである.そのような機能が特に役立った事例を2例,最近の新鉱物の研究から紹介したい.2.1島崎石ポリタイプの結晶構造島崎石(shimazakiite)は岡山県備中町布賀鉱山から産出した新鉱物である. 11)布賀鉱山は石灰石を稼行する坑道堀の鉱山で,結晶質石灰岩を貫く不規則脈の一部にホウ素が濃集しており,逸見石,沼野石などの新鉱物をはじめ,種々のホウ酸塩鉱物が多産する.島崎石は白色の結晶集合体として,同じくホウ酸塩鉱物の武田石と密接に共生する.化学組成(実験式)はCa 2B 2-xO 5-3x(OH)3x(x=0~0.06)と表され,理想式はCa 2B 2O 5である.同一組成の合成物は2種類報告されているが, 12),13)島崎石のX線粉末回折データはいずれの合成物とも一致しない.薄片を鏡下で観察すると,(001)に平行な非常に細かいラメラ状組織を呈し,当初は良質な単結晶が得られなかった.そこで,透過型電子顕微鏡(TEM)による電子線回折像を用いて単斜晶系の格子定数が決定された.また,(001)双晶の存在を示す回折像が確認され,さらに, c*方向にストリークを引くことからも,多量の積層欠陥の存在が示された.その後,比較的粗粒の試料が得られたため,単結晶X線回折実験を行ったところ,意外なことに斜方晶系の結晶構造が得られた.すなわち,ラメラ状を呈する単斜晶系のポリタイプ(島崎石-4M)と,斜方晶系のポリタイプ(島崎石-4O)が存在したのである.それぞれの格子定数は,島崎石-4Mがa=3.5485(12), b=6.352(2), c=19.254(6)A,β=173