ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3
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日本結晶学会誌Vol56No3
八木健彦ンの建設計画を認めてもらうことであった. 2003年には東大の鍵裕之氏が中心になって最初の装置提案書を提出し,ヒアリングなど何度かのやりとりを経て計画をブラッシュアップし,それが最終的に認められたのが2005年であった.しかし建設に必要とされる10億円を超す経費は,競争的資金を獲得して提案者側が確保する必要があり,さまざまな努力が積み重ねられた.幸い2007年には鍵氏を代表者とする科研費の学術創成研究がスタートして,高圧ビームラインに適した中性子光学系の設計・製作に入ることができた.それに続いて2008年秋には,筆者が領域代表者となった科研費新学術領域研究「高温高圧中性子実験で拓く地球の物質科学」の申請が採択され,ビームラインの建設が本格的に開始された. 8)ビームラインの愛称もいろいろ議論され, high Pressure Leading Apparatusfor Neutron ExperimenTsからPLANETと名付けられた.計画を推進してきたメンバーは,「中性子実験をやったことがある」というレベルの経験者こそ多少いたものの,中性子の装置などに関してはまったくの素人ばかりであった.しかし幸い,若手の研究者たちが中性子分野のプロにいろいろと教えてもらいながら猛勉強して,光学系の設計や遮蔽体の計算なども含め膨大な作業をこなしていった.またすでに稼働を始めていたイギリスやアメリカのパルス中性子源で実験したり,さまざまな高圧中性子実験を経験していた欧米の研究者を招いてのアドバイザリー会議なども開催して,建設計画をより良いものに練り上げ,新しいビームラインの建設は順調に進んだ. 2010年には図5に示したようなビームライン遮蔽体や実験用ハッチも完成し,それらと平行して高圧装置の建設も始められた.この中性子ビームラインに設置する高圧装置としては,当初SPring-8で実績のあるDIA型と呼ばれる大型キュービックプレスの導入が考えられていた.しかし中性子実験で不可欠な,大きな試料室と広い開口角を確保できるようにさまざまな検討を重ねた結果,今まで放射光や中性子実験と組み合わせた例は世界中どこにもない,新しい装置を作ることにした.それは出力500トンの油圧ラムを6個組み合わせて,立方体の圧力媒体を加圧する“6軸型プレス”で,図6は建設中の新居浜の工場における装置検収時の様子である.自重30トン近くの大きな装置であるが,各軸の動きはミクロン精度で制御され,固体圧力媒体中に埋め込まれた3 mm角程度の試料を上部マントルの条件である10 GPa, 1500℃程度までの条件に保って中性子実験が可能なように設計されている.こうして2011年春には待望の中性子ビームをハッチ内に導入するところまで建設が進行した.奇しくも3月11日はファーストビームを受け入れる予定の日で,プロジェクト関係者が20数名集まって期待に胸を膨らませて待っていたところ,代わりにやってきたのが大地震であった.幸い建設中のビームラインそのものの損傷は軽微だった図5 J-PARCに建設された高温高圧実験用ビームライン“PLANET”.(“PLANET”beam line constructedat J-PARC dedicated for high P?T experiments.)2009年から東海村のJ-PARCに建設が始まったPLANETの外観.大きなハッチの中に光学系や高圧装置が設置されている.図6高圧中性子実験用に建設された6軸プレス.(6-rampress constructed for high-pressure neutron experiments.)最大出力500トンの6つの油圧プレスで立方体の固体圧力媒体を加圧し,その中心に埋め込まれたヒーターとその中の試料を加圧する.マントルに対応するP?T条件下での中性子実験が可能となる.が, J-PARCは大きな被害を受け,日本中も混乱に陥って,その後建設はほぼ丸一年停滞した.しかし関係者の必死の努力でこの危機も何とか乗り越え, 2012年秋には図7に示したようにやっとのことで完成式典を開催するところまで漕ぎつけることができた.その後引き続いて予備実験が開始されたが,残念なことに2013年春に起きたハドロン事故の影響でまたJ-PARCが半年以上停止してしまい,さらなる遅れが生じてしまった.しかし予備的な実験で得られた結果は期待以上のもので,図8に示したように高圧下でとったとは思えない高いS/N比をもった高品質の回折パターンが得られた. 9)強度170日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)