ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

八木健彦図3シンクロトロン放射光と初めて組み合わされた大型高温高圧X線実験装置“MAX80”(The firstlarge volume high-pressure and high-temperature X-ray apparatus“MAX80”combined with synchrotronradiation.)1983年に筑波のフォトンファクトリーに建設された,“MAX80”型高温高圧X線実験装置.上部マントルに対応する温度圧力条件下で精密なX線実験を可能にした画期的な装置であり,その後の世界の高温高圧X線実験に大きな影響を与えた.それまでのX線源に較べて何桁も高い強度と,強い指向性,そして高エネルギー領域の白色X線を用いたエネルギー分散法は,高圧装置との組み合わせに大変適しており,実験データの質の飛躍的な向上と,測定時間の劇的な短縮を可能にした.図3に示したのは,筑波のフォトンファクトリーに1983年に建設され“MAX-80”と名付けられた,世界で初めて大型高圧装置とシンクロトロン放射光を組み合わせた高温高圧X線実験装置である.当時先行するアメリカではいくつかの放射光実験施設で小型のダイヤモンドアンビル装置を使った高圧X線実験が行われていたが,もっぱら室温ないしは低温での高圧実験のみであった.そこで日本では,諸外国にはない装置を作って新しい領域を開拓しようと高圧分野の研究者が一致協力してこの計画に取り組み,大変ユニークな装置を完成させた. 2)この装置によって高圧X線実験の飛躍的な精密化や,黒鉛からダイヤモンドへの転換のその場観察,高圧相転移のカイネティクスの研究,ケイ酸塩メルトの粘性や構造の測定など,それまでまったく考えられなかった種々の研究が可能になった. 3)このような成功例を見て,アメリカやドイツのシンクロトロン放射光実験施設でも日本から同型の装置を購入して設置するといったことも見られた.その後,より高い圧力まで発生できる新しい高圧装置の開発も進められ,下部マントル上部に対応する40 GPa位までの実験が可能になった.しかし下部マントル全域,2900 kmの深さに対応する130 GPaまで圧力領域を広げるにはマルチアンビル装置では難しく,レーザー加熱とダイヤモンドアンビル装置をシンクロトロン放射光と組み合わせる努力が世界中で始められた.日本でもフォトンファクトリーのBL14にわれわれのグループで最初の装置を建設し,さまざまな改良を経てどうにか100 GPaを超す圧力領域での実験が可能になった.その後SPring-8にも同じ装置が建設されてさらに改良が積み重ねられ,第3世代放射光源の優れた性能にも助けられ,世界をリードする高性能の高温高圧X線実験装置になった.そしてそれを用いて2004年にはそれまで下部マントルの底まで安定と考えられていたペロフスカイト相が, 120 GPa付近でさらに密度の高いCaIrO 3型構造のポストペロフスカイト相へ相転移を起こすという,高圧地球科学の分野で世界を驚かせた大発見がなされたのである. 4)3.3地球中心条件での実験こうしてマントルの底までの主要な鉱物の安定構造やその安定領域,状態方程式などがすべて明らかにされた.さらにその後,核を構成する鉄に対する研究が精力的に行われた.常温常圧下では強磁性でbcc構造をもつ鉄であるが,ほかにhcp構造やfcc構造の相も存在することが知られており,地球の内核に対応する360 GPaで5000 Kを超す高温高圧状態では一体どんな構造をもつのかを明らかにするため,さまざまな研究が繰り広げられた.そして2010年には365 GPa, 5600 KでのX線実験の結果が報告され, 5)室温12 GPaで生成するhcp相と基本的には同じ構造の相が存在することが,ほぼ確認された.こうしてついに地球に関する限り,そのすべてのP?T条件下でのX線回折実験が可能になったわけである.このようにして地球の全領域に対応するP?T条件下でのX線回折実験技術が確立され,地球深部を物質科学的立場から調べる研究は大きく進展した.しかしX線だけでは見えてこないものもあり,それが次に述べる中性子をプローブとした研究の展開につながった.4.“水”が果たす役割4.1“水”の影響太陽系の元素存在度を見ると,水素が圧倒的に多く,地球を構成する主要元素であるMg, Si, Oなどより数桁多量に存在する.もちろんそのほとんどは太陽と,木星,土星などの巨大惑星に集まっているが,地球にもH 2OあるいはOHといった形で多量に含まれている.そしてこれらの水素は微量でもケイ酸塩の融点や粘性などの物性を大きく変化させることが知られている.また,常圧下では水素は鉄にほとんど溶け込まないが,約3 GPaかけるとFeH xの鉄水素化物が生成し,鉄の物性も大きく変化することが明らかにされた.図4は鉄とMgSiO 3の混合物を約168日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)