ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

地球深部科学と結晶学―高圧下のX線実験と中性子回折実験―的性質の分布を表すだけで,どんな物質がどんな状態にあるかを知るには,物質科学的な考察が必要である.この問題に対して初めて系統的に考察を進めたのはアメリカのバーチで,彼が1952年にJ. Geophys. Res誌に発表した50ページを超す大論文1 )“Elasticity and constitution of theEarth’s interior”はこの分野で古典になっている.この論文は,有限歪みの弾性論やさまざまな物質に対する圧縮率の測定データなどを総合的に駆使し,上部マントルから下部マントルに変わる遷移層の変化は構成鉱物の圧力による単純な圧密では説明できず,何らかの相転移ないしは組成変化が起きていること,下部マントルはケイ酸塩鉱物で構成されているが,シリコンの配位数は上部マントルの4配位からおそらく6配位に増加した高密度鉱物になっていること,さらに核はその密度と太陽系における元素の存在度を考慮した場合,鉄が主体になって,外核は液体,内核は固体状態になっていること,といった現在われわれが理解している地球内部の基本構造をすべて明らかにしている.このような理論的推測を実験によって明確にしようと試み始めたのが,オーストリア国立大のリングウッドであった.当時はまだ高圧高温実験技術が未熟でさまざまな困難があり,マントルの遷移層よりはだいぶ低い圧力条件下での実験ではあったが, 1958年にはオリビン構造をもつFe 2SiO 4が実際に高温高圧下でスピネル構造に変化することを示した.その後東大物性研の秋本俊一をはじめとした日本の研究者もマルチアンビル装置と呼ばれる高圧装置を駆使して精密な実験を積み重ね,遷移層では上部マントルの最も主要な鉱物であるオリビンが,変形スピネル相を経てスピネル相へ,またそれに次ぐ存在度をもつ輝石とザクロ石は固溶体になって,いずれも密度が大きく増加し,地震波で観測されている410 kmの不連続とそれに続く遷移層の急激な密度増加がこれらの相転移で説明できることを明らかにした.それに引き続いて,さらに深い660 kmに存在する不連続の正体を解明する研究が世界中で繰り広げられたが,当時はまだその深さに対応する24 GPaという高圧と1000℃以上の高温を同時に発生できる装置がなく,モデル物質を使った研究や,高圧装置の開発が盛んに繰り広げられた.そして1974年に,開発されて間もなかったレーザー加熱装置と組み合わせたダイヤモンドアンビル装置(図2)を用いて,リウがこれらのケイ酸塩高圧相がいずれも,シリコンが6配位になったペロフスカイト構造の鉱物に相転移するか,ペロフスカイト相と岩塩構造の相に分解することを明らかにした.下部マントルは660 kmからさらに2900 kmの深さまで続いており体積では全地球の50%以上を占めるが,この領域では明瞭な密度の不連続は見られないことから,このペロフスカイト型ケイ酸塩という地表ではまったく見られない高密度鉱物が,実は地球日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)図2レーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置.(Laserheated diamond-anvil high-pressure apparatus.)地球深部の研究に広く使われている高温高圧実験用レーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置の一例.物性研で使われていたもので,ダイヤモンドに挟まれた微小試料に赤外レーザーを照射することにより,下部マントルに対応する温度圧力条件を作り出すことができた.を構成する最も主要な鉱物であることが明らかになったわけである.3.シンクロトロン放射光の利用3.1高圧下のX線回折実験ここまでの研究は,クエンチ法と呼ばれる高温高圧状態から急冷して回収した試料を1気圧下で調べる方法で行われた.幸い多くのケイ酸塩では,高温高圧下で生成した高密度相が,急冷後室温で減圧して1気圧下に回収しても,準安定状態としてその結晶構造を保ったままなので,このような手法による研究が可能だったわけである.しかし高圧相の生成圧力が高くなるほど,回収された準安定相も不安定になり,得られた相が本当に高温高圧下の安定相と同じなのかが常に問題になった.また高温での圧力値を見積もることは難しく,相転移圧力を正確に知ることは容易ではなかった.これらを解決する切り札と考えられたのが,高温高圧下のX線その場観察実験である.高圧下のX線実験は1950年頃から行われ始めたが,当初は圧力領域も低く, 1つの測定に要する時間も数日から数週間といった長時間を要し,ケイ酸塩の高圧相転移をリアルタイムで観察することはとてもできなかった. 1970年代には筆者らが,小型のマルチアンビル装置と回転対陰極型の強力X線源を組み合わせ, 10 GPaで1000℃程度の領域までの実験技術を確立し,いくつかのケイ酸塩の相転移境界を精密に決めたが,まだその利用は限定的であった.3.2シンクロトロン放射光の利用この状況を劇的に変化させたのが, 1980年代に始まったシンクロトロン放射光を使った高圧X線実験である.167