ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

特集:鉱物学と結晶学日本結晶学会誌56,166-172(2014)地球深部科学と結晶学―高圧下のX線実験と中性子回折実験―東京大学八木健彦Takehiko YAGI: Study of the Earth’s Deep Interior and Crystallography?X-ray and Neutron Diffraction Experiments under High Pressures?History of the study of the Earth’s deep interior was reviewed. In order to understand Earth’sdeep interior from the view point of materials science, X-ray diffraction under high pressureand high temperature played very important role. Use of synchrotron radiation dramaticallyadvanced this experimental technique and it is now possible to make precise X-ray studyunder the P-T conditions corresponding even to the center of the Earth. In order to clarify thebehavior of light elements such as hydrogen, however, studies using neutron diffractionare also required. A new neutron beam line dedicated for high-pressure science is constructedat J-PARC and is now ready for use.1.はじめに結晶学は天然の鉱物に見られる美しい結晶面に対する興味から始まった.多種多様に見える結晶の形に存在する法則性を見出し,それらを理解するために対称性などの考え方が導入され,そしてそれらの法則性が実は結晶を作り出す個々の原子の配列に起因していることが明らかにされたわけである.その後結晶学は飛躍的な発展を遂げ,今や物理,化学,生物学など自然科学の多様な分野において,最も基礎的な情報を与える不可欠な学問になっている.そして,高圧実験技術やシンクロトロン放射光など新しい実験技術と組み合わせて,多様な条件下での結晶構造に関する情報を得られるようになり,地球深部構造の理解にも大きく寄与してきた.本稿では,結晶学と地球深部科学のかかわりあいの歴史を概観し,ごく最近本格的な稼働を始めた高圧高温中性子回折実験装置について紹介し,さらに今後の展望も述べてみたい.2.地球深部の高密度鉱物2.1地球の内部構造地球の内部が一様ではなく,地震波の伝搬速度や密度が異なるいくつかの層からできていることは,地震波の解析により1930年代頃には明らかにされてきた.当初は地表からの深さが増すほど地震波の伝搬速度が速くなることがわかったが,そのうちある深さを境に不連続的に伝搬速度が変わることから,コアの存在が明らかにされた.その後地震学は急速な進歩を遂げ, 1950年代には地球内部が図1地球内部の地震波,密度構造.(Seismic velocity anddensity distributions in the Earth.)地球内部にはいくつか地震波速度や密度が不連続的に変化するところがあり,その原因を解明する研究が結晶学を駆使して行われてきた.表面付近から地殻,マントル,核と名付けられた3つの領域からなり,後者2つはさらにそれぞれ上部マントルと下部マントル,および外核と内核に分けられることが明らかになった.地震の観測点の増加に伴い次第に分解能も向上し,上・下部マントル間の「遷移層」と呼ばれた領域は,地震波の急増域といくつかの不連続面があわさって構成されていることが明らかになり,図1に示したような地震波で見た地球内部構造の全容が明らかになった.2.2マントルを構成する高密度鉱物このようにして得られた情報はしかし,地球内部の弾性166日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)