ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

奥部真樹,佐々木聡図7マグネタイトにおける共鳴磁気散乱因子f" mのエネルギー依存と対応する電子軌道.(Energy dependenceof f" m and electronic orbitals for magnetite.)(a)Aサイト,(b)Bサイト.図8 Baフェライトの(a)結晶構造と(b)Fe原子の磁気モーメントの傾き.(Magnetic moments of Fe in Ba ferrite.)6.2磁気超格子反射の観測磁気散乱と係る共鳴効果により強度がエンファンスされるとはいえ,共鳴磁気散乱強度は電荷散乱に比して10 ?3程度である.そこで確認の意味も込め,共鳴磁気散乱が有効に観測できるかどうかを,磁気超格子の観測でチェックした.希土類元素Tbは, T N=230 Kで常磁性から反強磁性に相転移し,らせん磁気構造を取る.そのとき00l近傍で磁気超格子反射が観測される. 26) Tb単結晶に対しPF-BL-6Cで円偏光を用いた共鳴磁気散乱実験を行った. 2p→5d遷移が起こるTb L III吸収端近傍(E=7.5180 keV)で, 002反射近傍に002±τの2つの磁気超格子反射を観測した. 27)同様にBaフェライトBaTiCoFe 10O 19でも, Feの磁気ヘリックスによる磁気超格子反射008+(2/3)をT=100 Kで観測した. 28)これらから, X線共鳴磁気散乱による磁気シグナルがBL-6Cで十分に検出されていると判断した.6.3マグネタイトとフェリ磁性マグネタイトの共鳴磁気散乱強度を非対称度として測定し,式(9)と式(11)からf" mのエネルギー依存を求めた(図7).吸収端での電子遷移と関係づけられ,その結果はLSDA計算とよく合っている. 29)詳細は別稿に譲る.6.4 M型フェライト共鳴磁気散乱には元素選択性がある.したがって,複数の磁性元素を含む系において,注目する元素にのみ着目した磁気構造解析を行うことができる.遷移金属添加のM型BaフェライトBaTiCoFe 10O 19は, c軸に沿って大きな磁気異方性をもつ. Fe 3+をTi 4+とCo 2+で置換することでFeのスピンが傾き,磁気異方性が低減する. 30)電子配置が異なる2種類の磁性イオンCo 2+とFe 3+が5種類の陽イオンサイトに入るが,そのFeスピン配向は取りうる多様性ゆえに興味がもたれる.X線共鳴磁気散乱実験を行い,円偏光反転で式(10)に対応する非対称度?R obs=?I obs/2I obsを求めた.一方, Baフェライトでの磁気構造モデルを構築し,そのときの共鳴磁気散乱にかかわる構造因子を計算し,式(11)にしたがって,非対称度?R calc(=?I/2I)を求めた.式(6)に対応させて解析した結果, 5つある陽イオンサイトそれぞれで,残差因子?=Σ(|?R obs|-|?R calc|)2がf" mに対し最小値をもった.このときのf" mが各サイトでの磁気モーメントの大きさを与える.スピンのc軸からの傾きを反映してf" mが増減することを利用し,スピンの傾き角を見積った. 31)その結果を図8に示す. 5つのサイトでFeスピンの傾きが独立に得られ, 2a, 2b, 4f 1, 4f 2, 12kサイトでの傾き角は, 118°, 19°, 180°, 180°, 65°(c軸に沿った磁化に平行に正)となった.無添加のBaFe 12O 19ではすべてのスピンはc軸に沿っているが, 32) Ti 4+とCo 2+で置換するとスピンが傾くことがわかる.特に, 2aサイトの傾きが大きい.また, Feのスピンの傾きは,サイト中のTiとCoの占有率に依存する傾向が見出されている.M型のフェライトでは,添加する遷移金属の種類によって磁気異方性が異なる.そのため, BaTiCoFe 10O 19系は磁気ヘッドに利用され, BaTiMnFe 10O 19系は電波吸収材に利用される.そこでBaTiMnFe 10O 19に対しても同様の共鳴磁気散乱実験を行い,両者の差を求めている. 26)7.おわりに結晶による回折現象が見出されてから一世紀が経ち,本年はそれを記念した世界結晶年IYCr2014の催しが世界各地で行われている.本稿を書くにあたり,改めて異常分散が利用されてきた歴史を振り返ってみた.結晶学の黎明期からの利用に驚くとともに,放射光の登場のすごさを再認識した.その普及に伴い共鳴散乱に対する期待も増している.その共鳴散乱の利用法は, 1個の反射を詳しく調べる手法と多くの反射を用いて構造解析する手法に大別される.それぞれに一長一短があるが,両者の安易な利用には危うさが伴うように思われる.前者は,結晶構造因子の式を思い浮かべればわかるが,指数hklの反射が単位格子のある断面を切る結晶面(hkl)での回折を与え,結晶構造全164日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)