ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

共鳴散乱と結晶構造解析移(4配位Aサイト)の寄与や, Fe 3dとO 2p軌道の混成で禁制が解けた双極子遷移(6配位Bサイト)の寄与などが考えられる.共鳴散乱を用いると,特定の電子遷移に絞った解析が行える.ここでは,共鳴散乱から前吸収端での電子遷移を考察する.前吸収端での共鳴散乱実験22)のため,前吸収端ピーク上のE on=7.1082 keV(λ=1.7442 A,図1bで“on”の位置)と裾野のE off=7.1051 keV(λ=1.7449 A,“off”)の2点を選んだ.共鳴散乱実験から求まった異常散乱因子は,E onでf'=-7.063(Aサイト), f'=-6.971(Bサイト),E offで-6.682(Aサイト),-6.709(Bサイト)である.E onとE offでの回折強度の差を用いて電子密度分布を解析した. 22) 2点での電子密度の差?ρ(r)は,?ρ( r) =ρ( r) ?ρ( r)onoff{( ) < > + } < > ??1on offoff?V ?obs ??∑∑∑F FobsFobs 1 Fcalc Fcalc????exp( ?2πi k?r)(7)と近似される. F obsとF calcはスケーリングで合わせるため,電子密度の絶対値を直接議論できない.一方,差フーリエ合成のため,実験の系統誤差が相殺される.図6にE onとE offでの電子密度差?ρ(r)を示す.図6aと図6bはそれぞれ, AとBサイトを占めるFe原子の部分電子の密度分布図であり,前吸収端での電子遷移を反映している.電子密度のピークはサイト中心にあり,高さは-2.7 eA ?3(Aサイト)と-2.9 eA ?3(Bサイト)である.ともに負の電子密度になっている.ここで強調すべきは,スピネル構造におけるBサイトの対称性が電気双極子禁制のO hではなく,D 3dになることである.したがって,第2近接のFe原子までを考慮すると, BサイトにもAサイトと同様の電子密度が観測されても問題はなく,観測結果に矛盾はない.また,マグネタイトの局所スピン密度近似(LSDA)計算によると, 23) Bサイト中のFe 3d電子のt 2g軌道はフェルミ・エネルギーE Fを跨いでおり, Aサイトのe軌道もE Fの直上にある.実験結果はこの計算と整合する.6.共鳴磁気散乱6.1解析法遷移金属イオンの電荷とスピンは,ともに電子がもつ性質である.価数と同様にスピン状態についても,吸収端付近で,磁性電子の非占有軌道が関係する電子遷移をX線の波長で選択し,回折実験を行えばよい.その結果,内殻電子励起に関連づけた結晶構造が議論できる.この種の回折実験では,円偏光X線やゴニオメータヘッドに載る小型希土類磁石を用いると,測定や解析が簡単になる.放射光のもつ直線偏光とそれを利用する透過型ダイヤモンド移相子が用いられるが,完全性の高い移相子結晶を使うため,放射光のもつ指向性の良さも重要である.ここでは, X線による磁気構造研究に強度のエンファンスが期待できる共鳴磁気散乱を利用する.吸収端では磁気散乱と電気的散乱の散乱振幅の干渉項がエンファンスされる.運動学的理論の範囲で回折強度Iは, Hannonらによると,共鳴磁気散乱寄与の結晶構造因子F rem(k)を用いて,I F ( k) mi F ( k) mi F ( k)= ch mag rem(8)と与えられる. 24) F ch(k)とF mag(k)はそれぞれ,共鳴効果まで含む電荷散乱と非共鳴磁気散乱による結晶構造因子である.共鳴磁気散乱の寄与分のみをとりだすと,F =Σ(e×e ) ? z( f' + i f" )exp( ?W)exp(πi k?r)(9)rem 0 m m2と書ける.ここで, eとe 0は入射波と散乱波の偏光単位ベクトル, zは磁気モーメントの量子化ベクトル, f' m+if" mは原子散乱因子の共鳴磁気散乱項, WはDebye-Waller因子である.X線共鳴磁気散乱の実験に円偏光X線を用いる.今,円偏光の向きを反転したとき,ブラッグ反射強度に現れる差を非対称度,+ ? + ??I / 2 I = ( I ? I )/( I + I )(10)と定義する.原理的には, ?I/2Iには磁性電子の磁気散乱と共鳴磁気散乱による寄与が含まれる.式(8)と式(9)をHannonら24)やKobayashiら25)に従って展開すると,反射強度の非対称度を共鳴磁気散乱に関係する構造因子を用いて,以下のように記述できる.2図6Fe原子の部分電子密度分布.(Electron-density distributionof pre-edge related electrons of Fe aroundA and B sites.)(a)Aサイト,および(b)BサイトのFe K前吸収端に寄与する電子分布.?I / 2I=?4(cos 2θ)( 1? cos 2θ){( F + F' ) F" + F" F' + F"F} /2{( 1+cos 2θ) F }02(11)上の式には磁気構造因子や電荷散乱を共鳴・非共鳴に分けたときの構造因子F m 0 , F', F"が含まれるが,大半が既知量であるため,共鳴磁気散乱による寄与F' mとF" mが求まる.mmm0日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)163