ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

奥部真樹,佐々木聡低温相にはl=1/2の指数をもつ超格子反射が出現する.図4bにT=102 Kの単結晶回折実験で測定した047/2超格子反射ピークの波長依存を示す. 17)ピークの強度変化から電荷秩序の効果が含まれることがわかる. Fe 2+とFe 3+で原子価にコントラストがつく波長λ=1.7421 Aと散乱能に差がでないλ=1.7499 Aの測定で,超格子反射の強度に有意義な差が見られる.5.共鳴散乱と単結晶構造解析5.1解析法混合原子価化合物の中には,前章で述べたように,温度変化で相転移を起こし,低温側で電荷秩序状態を示すものがある.それらに対し共鳴散乱を用いて単結晶構造解析を行うと,電荷分布や価数の異なるイオンの空間分布・席占有を決定することができる.構造解析で注意すべきは, X線のもつエネルギー分解能であり,有意義な結果が引き出せるかを検討することが必要である.そして, SN比をあげるとともに統計誤差を小さくし,精密結晶構造解析を目指す.精密構造解析では最小二乗法による精密化を行うが,そのときに収束状況をモニターする解析が有効である.サイト中のモル分率などの求めたい量をパラメータとして変化させるとき,最小二乗法の残差因子( obs calc )? =Σw F ? F2(6)の変化を詳しく調べることが多くの解析で役立つ.5.2希土類元素の価数と結晶構造解析希土類元素(ランタノイド)は4f電子をもつが,その軌道半径は小さく,外側の閉殻5s, 5p電子で静電遮蔽されていて隣接原子の影響を受けにくい.このため一般に希土類イオンは3価で安定であるが, Sm, Eu, Ybには2価イオンも存在し, 4fがフェルミ面にかかることで混合原子価状態になる.典型例として, Eu 2+とEu 3+が1:2で存在するEu3S4をとりあげる.常温でEu2+とEu3+が電子ホッピングし,縮退型半導体(立方晶系Th 3P 4型:a=8.516(2)A,空間群I4 _ 3d)である. T=185 K以下では,そのホッピングが凍結し絶縁体(正方晶系:a=8.505 A, c=8.539A,空間群I4 _ 2d)になる. 18)-20) 2価と3価のエネルギー差が小さいため,相転移に伴うイオン配列を理論的に求めることは難しく,実験的に価数を求めた.まず高温相と低温相の単結晶構造解析を行い,その後にEuイオンの配列(電荷秩序)を共鳴散乱で決定した. 20) Eu 2+とEu 3+のf'とf"値は, XANESデータをK-K変換して実験的に求めた(図5). Mo Kαデータで決定した低温構造をモデルに, Eu 2+とEu 3+の席選択率を求めた.λ=1.6312 Aの測定から, AサイトでEu 2+:Eu 3+=0.04:0.96, BサイトでEu 2+:Eu 3+=0.96:1.04との結果を得た.別のλ=1.6298 Aでも同様の結果が得られた.低温での電荷秩序は[Eu 3+][Eu A 2+ Eu 3+]B S 4であり,既往の研究21)とは逆になった.これはスピネルの場合の逆スピネル構造に相当し, Eu 2+とEu 3+が同じBサイトを1:1で占めている. T=185 Kで,逆スピネル構造に似た電荷秩序をもつことから,T V以上で逆スピネル構造をとるマグネタイトと比較すると, Verwey転移に似た転移が低温に存在するかもしれない.実際,その可能性としてT c=3.8 Kのフェロ磁性転移があることが知られている.5.3マグネタイトの電子遷移と結晶構造解析マグネタイトのFe K吸収端では前吸収端(プリエッジ)にピークが現れる(図2).このピークは3d電子の電子遷移に由来し,結晶場の対称性や原子価状態に敏感である.1s→3dの電気双極子遷移は禁制であり,前吸収端ピークの起源についてはいろいろと議論が続いている.四重極遷図5Eu 3S 4での(a)異常散乱因子と(b)価数を求める構造解析での収束結果.(f' and f" and convergence of resonantscattering analyses for Eu 3S 4.)162日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)