ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

ページ
21/94

このページは 日本結晶学会誌Vol56No3 の電子ブックに掲載されている21ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No3

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No3

共鳴散乱と結晶構造解析るFe 2+とFe 3+の差で約5 eVの化学シフトがある.図にマグネタイト(Fe 3O 4)のXANESも示すが, Fe 2+とFe 3+との混合原子価をもつマグネタイトのスペクトルは,両者の中間的な化学シフトとなっている.4.2原子価コントラスト法X線回折でイオンを識別するには散乱因子に差をつける必要がある.対象が同じ元素で価数の違うイオンであっても,共鳴散乱を利用して異常散乱因子の実数項f'に差をつければ,元素識別と同じである.価数を区別する場合には,吸収端の閾値領域まで近づくことになり,自由原子について求めた異常散乱因子(計算値)は精度がなく利用できない.この場合,波長と結晶構造に適合した実験的なf'が必要になる.このf'を実験的に求めるには, XANES吸収スペクトルと式(3)のKramers & Kronigの分散関係を利用する.価数を区別するような吸収端に極端に近づく実験とそうではない実験では, f'とf"の数値利用に違いがでる.例えば元素を区別するだけの実験では,敢えてK-K変換をしなくてもよい.この場合,吸収端から離れて使えば,自由原子で求められたf 0とf'の理論計算値の利用で十分である(図1aと図1bを参照).価数の異なるイオンを空間的に分離して観察するには,f'の差を利用するVDC法5)がある. Fe-O系での化学シフトから, Fe 2+とFe 3+の閾値近辺のX線を用いれば,両者を区別できる. f'(Fe 2+)-f'(Fe 3+)の値5)は, E=7.1194 keVで-2.5, E=7.1178 keVで-2.1程度と十分である.この差を小さいように感じるかもしれないが, sinθ/λに依存せずほぼ一定となる異常散乱因子の性質からすれば十分である.4.3マグネタイトでの散漫散乱まずは,放射光共鳴散乱を使って逆空間強度分布を見ることを考える.地球上の岩石で磁性を担っているのはほとんど鉄であり,磁性鉱物として広く分布するマグネタイトを例にとる.産業的にも磁性材料として重宝されている.マグネタイトはスピネル構造をとる混合原子価化合物であり, Feが入る4配位Aと6配位Bサイトをもつ.そのイオン分配は,[Fe 3+][Fe A 2+][Fe B 3+]B O 4という逆スピネル型である.フェリ磁性を示し, AサイトのFe 3+とBサイトのFe 3+が超交換相互作用で反平行に配置し,これらの磁気モーメントは相殺される.残ったBサイトのFe 2+による磁気モーメントが磁化に寄与する.マグネタイトではT=120~220 Kの温度域に比熱異常があり,その温度域で電子線や中性子で特徴的な散漫散乱強度分布が報告されている. 14),15) Fe 2+とFe 3+の配列がひずむため,酸素原子がずれ格子全体が歪むと説明されている.散漫散乱強度分布が電子線と中性子で異なるため, VDC法での観察を試みた. Fe 2+ , Fe 3+イオンの空間分布にコントラストをつけた結果,電子線や中性子とは異なった形状の散漫散乱(Huang散乱)が観察された. 16)λ=1.7421 A, T=130 Kで測定した440反射の散漫散乱強度分布を図4aに示す.[110]*方向にツノ状の散漫散乱が現れ,原子価コントラストをなくすと消える.室温から温度を下げると,価数揺動していたFe 2+:Fe 3+対の電子ホッピングが部分的に凍結する. Bサイトが連結する[110]方向にFe 2+:Fe 3+のイオン対が存在し,その方向に価数揺動が起こっていると解析した.さらに温度を下げて, Verwey転移点に近づくと,転移温度(T V ? 123 K)の直上で,転移の前駆現象である臨界散乱が生じるがVDC法でも捉えた. 0 4 7/2反射の臨界散乱強度の温度依存から,臨界散乱にもFe 2+とFe 3+イオンの相関(相関距離150 A)が認められた.4.4マグネタイトと電荷秩序マグネタイトの電荷秩序についての議論は,現在に至るまで終止符が打たれていない.転移点T V以下で対称性が低下し,電荷秩序が生じるが,それと同時に格子歪みも起こり,双晶や新しいドメインが発生し,それらの重なった効果を分離できないためと思われる.ここでは,低温相の構造に電荷秩序が関係するかどうかをVDC法で調べた.図4(a)散漫散乱と(b)(c)超格子反射での原子価差コントラスト.(VDC in the intensities of diffuse scattering andsuperlattice reflection.)日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)161