ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

奥部真樹,佐々木聡うに原子番号が近い(周期律表で隣り合った)元素でも,共鳴散乱の利用で原子間の散乱能に十分な差がつけられる.このような回折実験では,吸収端より波長で0.01 A程度(エネルギーで40~70 eV)長い波長のX線を利用する(図1a).そして, f'とf"のCromer & Liberman式による計算値7)を解析に使えば,十分に信頼できる結果が得られる.Mn, Feを含むMnフェライト(MnFe 2O 4)で,結晶合成温度と席選択率の関係を求めた. 8) Mnフェライトは,[Mn 2+]A[Fe 3+]B 2 O 4で表される正スピネル構造をとると言われていた. PF-BL10Aで垂直型4軸回折計を用い,放射光X線共鳴散乱実験を行った. Fe K吸収端から0.01 A長い波長で, 50から80μmサイズの単結晶を用いた.そのときの異常散乱因子はf' Mn=-1.771, f' Fe=-4.898, f' O=-0.058であり, MnとFeは有意に区別がつく.高温(T=1353 K)で合成されたフェライトは,[Mn 0.97Fe 0.03][Mn A 0.08Fe 1.92]B O 4の正スピネル構造をとるが, T=723 Kで水熱合成されたフェライトは,[Mn 0.26Fe 0.74][Mn A 0.72Fe 1.28]B O 4と逆スピネル構造に近く72%のMnがBサイトを好んでいる.Fe K吸収端XANESによれば, Bサイトにおいて,高温ではFe 3+で存在するが,水熱合成試料になるとFe 2+とFe 3+が混在する.3.2輝石・カンラン石3成分系での元素識別数学的に連立方程式を解くように, n個の波長で共鳴散乱実験をすれば,未知数がn-1個の成分系で陽イオン分布が求まる.例えば, M1, M2という2つのサイトにA, B,Cの3元素が占有する場合, A, B, C原子の占有率(未知数)をu, v, wで与えれば,ある波長で測定されたM1サイトの原子散乱因子f M1は,f = u f + v f + w fM1 A B C(5)と記述できる.ここでwは, w=1?u?v(サイト全体で1)となり,式(5)はuとvのみの2変数で表される.あらかじめ化学分析で3元素の組成がわかっていれば, M1の席占有率を決めると自動的にM2の席占有率が決まる.原子散乱因子が異なる別の波長でもう1組の測定を行えば,式(5)が新たに1つ立てられ, 2変数に2式でこの方程式は解ける.共鳴散乱を利用しないと,異なる原子散乱因子のセットが選べないため, 3成分の連立方程式で有意義な解は求まらない.このように, 2波長異常散乱(Two-WavelengthsAnomalous Dispersion;TWAD)法を用いれば,求める3原子についての3成分でf'の差を十分に大きくでき,散乱能の差から席選択率が求まる.席選択率が地球温度計として利用できる斜方輝石やカンラン石で, 3種類の遷移金属元素が2種類のサイトをいかに占めるかが1980年代半ばに求められた.斜方輝石には2種類の八面体サイトM1, M2がある. M1は比較的正図3 Mn-Fe-Zn 3成分系における席占有率と残差因子.(Mn-Fe-Zn diagram of site occupancy and residualfactors.)(a)T=1873 K合成結晶と(b)T=1373 K合成結晶との比較.八面体に近く, M2はより歪んでいる. Co, Ni, Znの2種類のサイトでの席選択性を調べた結果, Co:Ni:Znが1:1:1の(Co, Ni, Zn)SiO 3で, 9),10) M1サイトには27%Co, 53%Ni, 20%Znが入り, M2サイトには39%Co,14%Ni, 47%Znが入っていた. Co, Ni, Zn原子のイオン半径はそれぞれ0.745, 0.690, 0.750 Aであり,小さいNi原子が小さいM1を好み,大きいCoとZnが大きいM2を好んでいる.同様に(Co 0.377Ni 0.396Zn 0.227)2SiO 4カンラン石でも解析が行われた. 11) M1サイトに33%Co, 54%Ni, 13%Znが, M2に42%Co, 25%Ni, 33%Znが入る結果が得られた.Mn-Znフェライトでも同様にTWAD法で, Mn, Fe,Znの3成分系での席選択率を求めた. 12),13)合成温度とイオンの秩序化の関係を調べるため, Fe KおよびZn K吸収端で積分反射強度を測定し,最小二乗法から残差因子が最小になる3成分組成を得た(図3).図の太い実線の交点が収束点(席占有率)を示す.ブリッジマン法(T=1873 K)で合成されたフェライトの陽イオン分布は[Mn 0.54Zn 0.34Fe 0.12][Zn A 0.01Fe 1.99]B O 4,固相法(T=1373 K)で合成されたフェライトでは[Mn 0.71Zn 0.10Fe 0.19]A[Mn 0.09Zn 0.08Fe 1.83]B O 4であった.磁気ヘッドなどに利用される高温合成Mn-Znフェライトは完全な正スピネル型である.一方, 500 Kほど低い温度で合成すると, 17%のMn-ZnがBサイトに入り,逆スピネル成分をもつことになる.4.原子価の区別4.1価数と化学シフト固体内電子がイオン結合的に表現できれば,酸化状態(原子価,価数)はいい指標になる.前吸収端から主吸収端にかけてのXANESの閾値領域では,原子価の違いで内殻から空準位への吸収エネルギーが変化する.このため,価数の差で化学シフトが存在する.図2にFe金属箔とFe酸化物のFe K吸収端XANESスペクトルを示す. 5)ウスタイト(FeO)とヘマタイト(Fe 2O 3)のFeサイトはともに正八面体6配位であるが,占有され160日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)