ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

共鳴散乱と結晶構造解析できる.入射X線エネルギーが原子の励起エネルギーに近づくと共鳴散乱が起こり,そのときの原子散乱因子は,f = f0 + f' ( E) + i f"( E)(2)と複素数で記述される. f'とf"を異常散乱因子, f 0をThomson散乱項という.虚数項f"は吸収断面積に関係し,f'<0, f">0である(図1a).共鳴散乱効果は入射X線のエネルギーに依存するが,散乱角に対しほぼ一定値をとる.2.2吸収と散乱吸収端近傍のエネルギースキャンをすると,飛び出した光電子で原子の空いた電子レベルを順に辿ることができる. Fe酸化物のK吸収端XANESスペクトルを図2に示す.吸収端に近いところで吸収量の急激な変化があり,吸収端で閾値(threshold)が存在する.前吸収端から+30eVまでのXANESには,原子の電子構造に関する情報が含まれ, 1s(や2p)からnd, np, ns軌道の空準位で特徴的に吸収される.吸収と散乱の間にはKramers & Kronigの分散関係4)∫2 20 0f '( E ) = ( 2 /π) [ Ef"( E)/( E ?E )] dE(3)が成り立つ. EはX線のエネルギーである. Fe K吸収端XANESからKramers & Kronig変換(K?K変換)で求めた異常散乱因子f'とf"を図1bに示す.例えば,波長λ=1.7442 A(E=7.1082 keV)で, Fe 3+に対しf'=-6.206という値が得られている. 5)この分散関係から,吸収端近傍では,異常散乱因子に大きな変化が現れる.2.3放射光の性質と4軸回折計共鳴散乱を用いる単結晶X線回折では,放射光の性質の中で主に,高輝度,白色光と高指向性を利用する.高輝度は, SN比改善で短時間測定を可能にするばかりでなく,分光結晶・アナライザー・スリットを利用するとき高分解能でも強いX線を生成する.結晶構造解析でなくても,例えば,相転移に伴う弱い超格子反射や禁制反射を観測するときにも有効である.そして放射光が白色光であるため,分光学的回折実験ができる.単結晶構造解析をラボで行うとき,構成元素により異なるが,一般にはSN比を考えて100μm程度より大きい単結晶を使用する.放射光で吸収端を跨いで実験し吸収元素の含有量が多い場合には,吸収係数を計算し,あらかじめ適正な大きさの試料を準備する必要がある.吸収元素の含有量が多い系で吸収端に極端に近づく場合には,単結晶の直径は50μm以下,ときには数μmになる.また,単結晶ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)による高圧X線構造解析では,ダイヤモンドの厚さも重要になる.二次元検出器の発達で恩恵を受ける研究領域も増えてきたが,単結晶構造解析が利用できる手法には限界がある.吸収端近傍の回折実験でも,タンパク質MAD法のような場合には,異常散乱元素の含有率が低く,吸収の影響はあまり問題にならない.一方で,鉱物・無機結晶や金属結晶では,異常散乱元素の割合が数十%になることもあり,蛍光X線によるバックグラウンドを無視できない.一次元カウンター法であれば検出器の前にスリットを入れられるが,二次元検出器ではそのような対応は一般に困難である.4軸回折計については,二次元検出器の発達で逆に精度や測定の速さが問われなくなり,交差精度などが放射光光源の発展に追いつけないのが現状である.放射光が水平面内で直線偏光するため,回折計の検出器軸(2θ)は一般に垂直型である.フォトンファクトリー(PF)の垂直ウイグラーBL-14Aには,例外的に水平型がある.円偏光を利用するビームラインでは, PF-BL-6Cのように市販の水平型4軸回折計が利用できる.われわれの間では, Fe金属箔の変曲点を基準に定め,Feの吸収端(E=7.1120 keV)とし(図2), E?λ変換係数を12.398,ヘリシティ(+1)を右ねじ円偏光(光源側からみて時計回り,移相子の-90°シフト)と定義している.3.電子数が近い元素の区別3.1 2成分系での元素識別単結晶構造解析で元素を区別するには,結晶構造因子の式に現れる原子散乱因子fの大きさと角度依存性(散乱能)を利用する.結晶構造因子はfの関数で,F( k) =Σf exp( 2πi k?r)j(4)図2 Fe K吸収端でのFe酸化物のXANESと化学シフト.(XANES of Fe oxides and Fe foil at the Fe K edge.)日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)と表される.ここでkはミラー指数hklに対応する散乱ベクトル, rは座標x, y, zに対応する位置ベクトルであり,総和は単位格子内にあるすべての原子jについて行う.ある原子のfの散乱能に大きな差をつけると,式(4)の対応する部分に差が出て,結晶構造因子への寄与の差が大きくなる.その結果,陽イオン分布を決める精度が上がり,占有率決定の誤差が小さくなる.最初に放射光実験が行われたのは(Co,Fe)3O 4に対してである. 6) MnとFeのよ159