ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

温度をパラメータとした鉱物結晶学―原子変位挙動の解明―表297 Kにおける24cモデル解析と96hモデル解析から得たMgの構造パラメータ. 2)(Structural parametersfrom the 24c and 96h model refinements at 97 K.)AtomSiteSOFxyz*U eq or†U iso(A 2)24c modelMg24c10.12500.250.00539(1)*R=0.0151wR=0.0084のモデルにおいて, Mgに異方性ADPを適用するとnonpositive-definiteな値に収斂したので, Mgにのみ等方性ADPを適用(ほかの原子については異方性ADPを適用)して解析を行った.得られたMgの構造パラメータを,24cモデルでの構造精密化(すべての原子に対して異方性ADPを適用)の結果とともに,表2に示す.両モデルとも信頼度因子に大きな違いは見られなかったが, 96hモデルにおいてMgの位置パラメータは24c席から有意にずれ,静的変位成分が取り除かれた結果としてU iso(Mg)が24cモデルにおけるU eq(Mg)と比べて大きく減少した(表2).また, 96hモデルのほうが24cモデルよりも電子密度の残差が少なく, Hamilton’s test 16)からも96hモデルのほうがより妥当な構造モデルであることを確認した.測定したすべての温度において,同様の結果を得た.ここで見出した96h席が静的変位したMgの占有位置であれば,平均位置である24c席からこの96h席への変位ベクトルを変位楕円体の主軸へ投影した成分は,その主軸方向への静的変位量として変位楕円体に付加されているはずである.そこで,その変位ベクトルを[100],[011 _],[011]に平行な変位楕円体の各主軸へ投影した成分を計算したところ,例えば97 Kにおいて,それぞれ0.019(14)A, 0.038(6)A,0.058(6)Aであった.これらの値は, 97 KにおいてDebyeフィットから求めた変位楕円体の主軸方向における静的変位成分の平方根u2[=0.033(2)A], u2ax1 sax2s[=0.033(3)A], u2ax3 s[=0.046(3)A]と誤差内でそれぞれ一致した.このように, Mgにおける静的変位成分の異方性はたった1つのsplit-atom席を仮定するだけで説明されうる.以上のことから,この96h席が静的変位したMgの占有位置であると結論した.この96h席の等価位置は, 24c席の各等価位置から約0.07 A離れて,それらの周りに4つずつ分布している. 96h席におけるこれら隣接する4つの等価位置間の距離は0.09~0.14 Aの間に分布し,互いに非常に近いので, Mgはこれら4つのうちの1つしか占有できない.もしMgがある温度でポテンシャル障壁を越えて隣接する等価位置(ポテンシャル極小位置)へホッピングしたならば,その温度を日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)96h modelMg96h0.250.1267(12)0.0060(7)0.2512(3)0.0036(5)†R=0.0151wR=0.0084図6 96hモデル解析から得たU iso(Mg)の温度依存性. 2)(Temperature dependence of U iso(Mg)from the 96hmodel refinements.)実線はDebyeフィットの結果を示している.境にしてMgのADPは急激な増加を示すはずである.しかし,図6に示すように, 96hモデルの解析で得たU iso(Mg)は温度上昇に伴って単調に増加しているにすぎない.今回測定した最低温度である97 Kよりもさらに低温で, Mgのホッピングがすでに起こっているということも考えにくい.よって,少なくとも今回測定した最高温度である973 Kまでは, Mgは隣接する4つの等価位置のどれか1つに留まっていると考えるべきである.これは,“静的”変位という上記の結論の妥当性を示している.3.6非調和項を考慮した構造精密化大きなADPとして観測されるMgの特異な原子変位挙動の原因として,本研究のような静的変位説と対立して,室温程度の温度でさえもMgは非調和熱振動しているのではないかという議論も長年されてきた. 11),12)ここで, 24cモデルに基づいた非調和解析によって得た高次項テンソル係数γijkおよびδijklの温度依存性を図7に示す.これらの値自体は大きくないが,そのいくつかは多くの温度点において1σ以上の精度で0からのずれを示した.その典型的な例を図7に示している.ここで注目すべきことは,図7に示した各原子のγijkおよびδijklの多くが97 Kという低温でさえも0からずれ,調和型の異方性ADPに基づいた解析の場合(97 KにおいてR=0.0151, wR=0.0084)と比較して,非調和解析によって信頼度因子が大きく減少したことである(97 KにおいてR=0.0131, wR=0.0066).この信頼度因子の減少はHamilton’s test 16)によって有意であることを確認した.このように,各原子のPDFは97 Kという低温でさえも調和型分布(楕円体分布)から有意に変形していることは確かである.しかし,この変形を各原子の非調和熱振動に帰するのは合理的ではない.なぜなら, Mg 3Al 2Si 3O 12のような硬い結晶において,そのような低温では,熱振動への非調和性の寄与は原理的には無視しうるほど小さいはずであるからである.その証拠として,もし低温で熱振動の非調和性が現れているならγijkとδijklは低温で系統的な温度依存性を示すと考えられるが,少なくとも800 Kまではそのような温度依存性を示さない.こ155