ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

中塚晃彦も一致している.また,式(5)を用いてΘDeqから計算したMg, Al, Si, OのOPP係数αはそれぞれ3.34(2)eVA ?2 ,8.36(4)eVA ?2 , 9.45(7)eVA ?2 , 5.89(2)eVA ?2であり,Mg<O<Al<Siの順に大きくなる. Mg-O, Al-O, Si-O結合距離の熱膨張係数はそれぞれ12.9(3)K ?1 , 8.5(3)K ?1 ,1.3(5)K ?1であり,陽イオンのOPP係数の大小関係は結合距離の熱膨張係数から期待される結合の強固さの関係とよく一致している.U eqから求めた各原子の静的変位成分〈ueq〉2 sは11~14σ以上の精度で有意に大きな値をもち,特にMgはほかの原子と比べて2倍以上大きな〈u 2 eq〉s値をもつことがわかった.この結果に加え,次節で述べるようにMgのsplitatom席を決定できたことは, Mgが静的変位していることを強く示している. Oは2つのMg, 1つのAl, 1つのSiと結合しているので, Mgの静的変位に引きずられて配位子であるOも静的変位を生じ,その結果,そのOと結合しているAlとSiにも静的変位が誘発されると考えられる.さらに, Mgと共有稜を挟んで隣接するAlおよびSiとの斥力相互作用によって, Mgの静的変位はAlとSiの静的変位を助長し,その結果, Oの静的変位をさらに増加させると考えられる.これが, Mg以外の原子にも有意な静的変位成分が観測される原因であろう.異方性(j軸方向)の静的変位成分〈u 2 axj〉sも,各原子において11σまでの精度で有意に観測された.これらの値から各方向の動的変位成分〈uaxj〉2 d(=MSD axj-〈u axj〉2 s)を計算し,その温度依存性を図4に示した. MgとSiの動的変位成分はともに[100](Mg…Si)方向で最小であり,両陽イオン間に強い斥力が存在することを示している.一方, Alの動的変位成分はほぼ等方的であり,共有稜を挟んで隣接するMgとの相互作用はかなり小さいことを示している.各陽イオンの静的変位成分の異方性においても,これと同じ状況が見られる(表1).このように, MgとSiは,両者の静的変位と動的変位とが協同して, Mg…Si間の斥力を避けるような空間分布をとっていることがわかる.3.5静的変位したMgの占有位置では,静的変位したMgはどこに分布しているのだろうか.空間群Ia3 _ dを保ちながら, Mgが平均位置である24c席からわずかに離れたポテンシャル極小位置で統計分布していると考えるとき,次の3つのsplit-atomモデルを想定できる.(1)48fモデル:[100]方向に変位した48f席(x, 0, 0.25)(2)48gモデル:[011 _]方向に変位した48g席(0.125, y,0.25-y)(3)96hモデル:任意の方向に変位した96h席(x, y, z)この予測に基づき,差フーリエ法によって24c席近傍の残差電子密度分布を調べた.さらに,上記のsplit-atomモデルを仮定した構造精密化も行った.残差電子密度ピーク位置を明瞭化するためには原子の熱振動による影響を低減させる必要があるので,今回測定した最低温度である97 Kのデータを用いて行った.その結果,[100]および[011 _]方向には有意な残差ピークがまったく観測されなかった.詳細は省くが, 48fおよび48gモデルを仮定した構造精密化においても,両者とも静的変位モデルとしての妥当性を示す結果は得られなかった.対照的に, 24c席を通り,(011 _)面に平行な面上に近い一般位置座標(96h席)の等価位置で有意な残差ピークが観測された(図5a).この残差ピークにMgを割り当てたsplit-atomモデル(96hモデル)で構造精密化を行った.こ表1MSDのDebyeフィットから求めた静的変位成分(A 2)とDebye温度(K). 2)(Static disorder components(A 2)and Debye temperatures(K)determined fromthe Debye fits to MSDs.)〈u 2 eq〉s×10 3ΘDeq〈u 2 ax1〉s×10 3〈u 2 ax2〉s×10 3〈u 2 ax3〉s×10 3ΘDax1ΘDax2ΘDax3Mg1.43(10)482(2)1.07(10)1.09(23)2.15(27)638(4)505(4)391(2)Al0.64(5)723(3)0.65(13)0.63(8)0.63*730(8)720(5)0.68(6)754(4)0.47(10)0.79(7)0.79*787(8)739(5)720†Siaxis 1//[100], axis 2//[011 _], axis 3//[011]for Mg.axis 1//[111], axis 2⊥[111], axis 3⊥[111]for Al.axis 1//[100], axis 2⊥[100], axis 3⊥[100]for Si.axis 1//[100], axis 2//[010], axis 3//[001]for O.*〈u 2 ax3〉s=〈u 2 ax2〉†sΘDax3=ΘDax20.57(4)789(2)0.43(8)0.77(8)0.54(9)787(4)719(3)888(6)739†O図524c席を通り,(011 _)面に平行な面上での97 Kにおける差フーリエ図:24cモデルによる(a)調和解析後,(b)非調和解析後. 2)(Difference Fouriermap at 97 K on the section passing through the24c site and parallel to the(011 _)plane:(a)afterharmonic refinement and(b)after anharmonic oneon the 24c model.)×印は24c席(0.125, 0, 0.25)を,▲印は(a)で観測されたMgの静的変位に起因する残差電子密度ピーク位置を示している.実線,破線,一点破線はそれぞれ正,負, 0の等高線を示している.等高線間隔は0.1 eA ?3である.154日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)