ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3
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日本結晶学会誌Vol56No3
温度をパラメータとした鉱物結晶学―原子変位挙動の解明―3.3実験と解析5 GPa・1573 Kで合成した0.14×0.11×0.11 mm 3のサイズをもつMg 3Al 2Si 3O 12単結晶を石英キャピラリーに挿入して回折強度測定の試料とした. Debye-Waller因子を正確かつ精度良く決定するためには,試料位置温度を安定に保ち,各測定温度において可能な限りの広角度域に及ぶ回折強度を精度良く測定し,回折強度に影響する諸要因(吸収効果,消衰効果,熱散漫散乱効果など)に対してできる限り正確に補正することが必要である.特に,高温では熱散漫散乱(TDS)効果が顕著になる. TDS効果は原子位置の決定にはあまり影響がないため多くの場合無視されてきたが, ADPを過小評価してしまう効果がある.このため,高温でのDebye-Waller因子の精密決定には無視できなくなり, TDS補正を行う必要がある(ただし,この補正には弾性定数が必要となる).さらに,ガーネット化合物は多重散乱が多く, 10)その影響が疑われる反射を構造精密化の際に削除する必要がある.二次消衰効果を低減し,解析に用いる原子散乱因子を選択する際にその原子電荷への依存性をできるだけ避けるために,(sinθ)/λ値の小さな低角度反射も削除することが望ましい.また,冷却・加熱に窒素吹付け型の装置を用いる場合,試料位置温度を安定化させるためには,ガス噴き出しノズルと試料との位置関係やガス流量を最適化するなど実験的ノウハウの獲得が必要である.詳細な実験方法と解析結果については原著論文2)に委ねるが,以上の点に留意して,冷却・加熱に窒素吹付け型低温・高温装置を用い, 97~973 Kの20温度点において,高強度Mo Kα線(50 kV, 200 mA)を用いて4軸型X線回折計により2°?2θ?100°の範囲内の反射の強度を測定した.測定の際,試料位置の温度変動を±0.2 K以内に保った.等価反射を平均し,上記の各補正を施し,上述した反射を削除した後,最終的に,各温度に対してF o>6σ(Fo)の精度をもつ211~328個の独立反射を構造精密化に用いた.3.4原子の平均二乗変位の温度依存性と静的変位図3に各原子におけるU eqの温度依存性を,図4にj軸方向(j=1, 2, 3)への平均二乗変位MSD axjの温度依存性を示す.ここで, j軸は,変位楕円体の主軸が特定方向にある陽イオンではその主軸方向を,主軸が一般方向にあるOでは結晶軸方向に対応している.各j軸が示す方向は表1の脚注に記されている. MSDの温度依存性は,式(2)のDebyeモデルによく従っていることがわかる. Debyeフィットによって得られた各原子の静的変位成分とDebye温度を表1に示す. U eqから求めた各原子のDebye温度ΘDeqを原子数に応じて加重平均すると731(1)Kとなる.この値は,本研究の体積熱膨張から式(3)を用いて得た717(20)Kとよく一致し,既報の体積熱膨張から得た値[698(16)K]15)や300 Kでの音速(弾性波速度)から得た値(779 K)15)と日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)図3図4U eqの温度依存性. 2)(Temperature dependence ofU eq.)実線はDebyeフィットの結果を示している.j軸方向の平均二乗変位MSD axjとその動的変位成分〈u 2 axj〉dの温度依存性. 2)(Temperature dependenceof mean square displacement MSD axj in the j-axisdirection and its dynamic disorder component〈u axj〉2 d.)実線と破線はそれぞれMSD axjと〈u 2 axj〉dに対するDebyeフィットの結果を示している.各原子のj軸の方向は表1を参照.153