ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3

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日本結晶学会誌Vol56No3

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概要

日本結晶学会誌Vol56No3

温度をパラメータとした鉱物結晶学―原子変位挙動の解明―ここで,βij,γijk,δijklはそれぞれ二次項,三次項,四次項のテンソル係数であり, hはMiller指数である.調和熱振動を仮定する通常の解析の場合には二次項までが考慮される. X線構造解析では,熱振動によって原子が平衡位置(結晶学的等価席)から変位すると仮定して熱振動の解析が行われるので,調和熱振動を仮定する場合,原子の確率密度関数(PDF)は原子の平衡位置を中心とするGauss型分布(調和型分布)として扱われる.その等確率面は楕円体で表され,変位楕円体と呼ばれる.一方,熱振動の非調和性が無視できない場合には三次以上の高次項(非調和項)も考慮され,非調和項のテンソル係数は0から有意にずれ, PDFは調和型分布から変形する.原子の静的変位のような非調和熱振動以外の要因でもPDFは変形しうるが,この変形を非調和項の導入によって近似することにより,原子の静的変位などの現象を検出することも可能である.以降,慣例に従い,調和熱振動の異方性を表す二次項のテンソル係数βij(U ij)あるいは等方性を表すU iso(U eq)を原子変位パラメータ(ADP)と呼ぶことにする.2.2静的変位成分の抽出とDebye温度の決定ADPから求まる原子の平均二乗変位(MSD)には,原子変位の時間的・空間的な平均の結果として,熱振動に起因する動的変位と配置の乱れに起因する静的変位の両方の寄与が含まれる.Debyeモデルによれば動的変位成分は式(2)の第2項のように表され, MSDはその動的変(=〈u 2〉d)は零点振動の寄与による量子効果が効かない高温域(T>ΘD)では直線近似でき,この高温域から0 Kへ外挿するとその直線は原点を通る.このときの直線の傾きからDebye温度やポテンシャル係数などの結晶の固有値が得られる.一方,動的変位に加えて静的変位がMSDに寄与している場合,高温域(T>ΘD)から0 Kへの外挿直線は原点からずれ, MSDの嵩上げ成分(外挿直線の切片)として静的変位成分を抽出することが可能である.このような直線外挿による方法は原子の静的変位が存在するかどうかを判断する目安としてしばしば利用される.しかし,この方法はDebye温度があらかじめわかっている場合にはよいが,そうでない場合には量子効果が残る低温域のデータを含めて直線外挿してしまう危険性があり,得られた静的変位成分には零点振動の寄与が含まれてしまうことになる.そこで,低温から高温にわたる広い温度範囲で求めた多数のMSDデータに対して式(2)を最小二乗フィット(Debyeフィット)すれば, Debye温度が既知でない物質でも純粋な静的変位成分を抽出でき,同時にDebye温度も決定することが可能となる.Debye温度ΘDは,比熱,体積熱膨張,弾性波速度などの格子振動に関係した固体の性質を特性付ける物理定数である.これらのマクロな性質からもDebye温度を求めることができる.ここでは, X線回折の温度変化実験から直接求まる体積熱膨張について簡単に触れておく. Mie-Gruneisenの状態方程式から,温度の関数としての体積位成分〈u 2〉dと静的変位成分〈u 2〉sの和で表される. 3) MSD =2+2u s u d2Θ3hT ? TDxΘ?(2)D=2+Tu s2 ?∫xdx + ?mkBΘD?Θ0D e ?1 4T?ここで, mは原子質量, k BはBoltzmann定数, hは換算Planck定数,ΘDはDebye温度, Tは絶対温度である.一般には,静的変位成分はあまり温度に依存しない.その場合には,〈u 2〉sを定数とみなせ, MSDの温度依存性から静的変位と動的変位の両者の寄与を分離できる.ここで,式(2)の物理的意味を理解するために,この関数を図1に図示した.動的変位のみがMSDに寄与している場合, MSD図1 MSDの温度依存性の概念図.(Schematic diagramsof temperature dependence of MSD.)日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)V(T)は次のように導かれる. 4) V ?kUT ( ) ?tVT ( )= kka?1+ 2 ? 1?4 002 ?Q?0 v0 ?(3)?U( T)=nRT T 3Θ? Dx 39T? ?∫xdx?Θ?0e ?1Dここで, Q 0=K 0V 0/γG, k 0=(dK 0/dP-1)/2, a v=V t/V 0である. V 0とK 0はそれぞれ0 Kにおける体積と体積弾性率,dK 0/dPはK 0の圧力微分係数, V tは温度tにおける体積,γGはGruneisenパラメータ,U(T)は内部エネルギー, nは組成式当たりの原子数, Rは気体定数である.格子体積の温度依存性を測定し,それに対して式(3)を最小二乗フィットすることによってQ 0, k 0, a v,ΘDの4つのパラメータを決定できる.ただし,このようにして得られたDebye温度は,比熱や弾性波速度など固体のマクロなほかの性質から求めたものと同様,構成原子の総体的な平均値(マクロな値)として与えられるにすぎない.それとは対照的に, X線構造解析では結晶中の各等価席を占める原子それぞれに対してMSDを決めることができるので,上述したMSDの温度依存性による方法では各原子に対して個別にDebye温度と静的変位成分を決定できるという利点がある.さらに,異方性ADPから求めた特定方向のMSDに対してDebyeフィットを行えば, Debye151